ウイグルでの強制労働関与否定、調査の透明性に疑問も

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取引指摘された日本企業 本紙取材に回答

 中国の新疆ウイグル自治区で強制労働など深刻な人権侵害が懸念されている問題で、人権団体などから一部日本企業の関与が指摘されている。本紙は同自治区のサプライチェーン(供給網)に関わる日本企業に対し、ウイグル族の強制労働と関係しているか取材。回答した多くが関与を否定したが、疑念払拭(ふっしょく)に向けた取り組みや調査の透明性には疑問が残ったままだ。(辻本奈緒子、竹澤安李紗)

 

 オーストラリアのシンクタンク、オーストラリア戦略政策研究所(ASPI)が昨年3月に公表した調査報告書では、日本の家電やアパレルなどを扱う企業14社が、ウイグル人への強制労働が疑われる中国企業との取引を指摘された。

 これを基に、日本ウイグル協会は人権団体と共同で調査し、今年4月に記者会見で結果を公表。本紙はこの会見を受け、企業側に強制労働への関与や疑惑払拭に向けた取り組みなどを文書と電話で質問した。

 「無印良品」を展開する良品計画は衣料品に新疆綿を使用しているが、指摘された中国企業との関係は否定。外部専門機関による取引企業への工場監査を実施しているとした上で、「強制労働等の深刻な人権侵害に加担していることが判明し、かつ当社が影響力を行使しても是正が期待できない場合」には「取引関係の解消を検討する方針」だとした。

 任天堂、ミツミ電機、シャープも指摘の中国企業との取引を否定した。任天堂は書面確認などでリスク低減に対応しているとし、ミツミ電機は第三者機関による監査で人権侵害のないことが確認できなければ取引を停止・終了することもあると回答した。

中国・新疆ウイグル自治区の畑で綿花を収穫する人々=2018年10月撮影(AFP時事)

 京セラは、指摘の中国企業の親会社と取引関係にあることを認め、取引停止も含めて対応を検討していると回答。日本ウイグル協会の質問にも同様の回答をしていた。

 衣料品量販店チェーンのしまむらは「日本ウイグル協会の質問に答えたことがすべて。どう解釈するのかは協会側の問題だ。それに関する見解は特にない」とコメント。協会側の資料によると、しまむらは「強制労働などの行為があったかどうか、該当サプライヤーに事実関係を確認したが、そのような行為は行っていないとの報告を受けている」と回答し、協会側は「相手に聞けば否定するのは当たり前で、調査になっていない」と評価していた。

 パナソニックは協会側の質問に対し「2回の書面での質問状に加えて電話での問い合わせにも完全に無視」したといい、本紙の取材にも返答がなかった。期日までに返答がなかったのは同社を含む7社だった。

 レテプ・アフメット日本ウイグル協会副会長は記者会見で、新疆ウイグル自治区では、自らの意思ではなく行政の主導で移動させられていること、移送先で監視、洗脳教育を受け、帰りたい時に自宅に帰れないことなどを挙げ、「これは強制労働に当たる」と強く批判した。

ウイグル強制労働問題、欧米で制裁強化の動き

 ウイグル族の強制労働や人権侵害に対しては、欧米で制裁強化の動きが拡大している。米上院は7月に新疆ウイグル自治区からの輸入を全面的に禁止する法案を可決。輸入業者に対し、ウイグル産の輸入品が生産過程で強制労働と無関係であることを証明するよう求めた。

 新疆綿をめぐっては、アパレル大手の三陽商会やミズノ、グンゼなどが使用をやめ、素材の変更を検討している。一方で、「ユニクロ」などを展開するファーストリテイリングは、フランス司法当局がユニクロ仏法人の捜査を開始したと報じられたほか、米税関・国境警備局(CBP)からシャツ製品の一部輸入差し止めなどを受けており、各社の対応は分かれている。

 経済産業省がまとめたアパレルなど繊維産業の持続可能性に関する報告書では、製造・流通などのサプライチェーンで強制労働や不当な低賃金などの人権侵害がないか、繊維企業が確認するガイドライン(指針)を業界団体に策定するよう提言されている。同省は「個別の事案を踏まえたものではない」としたが、新疆綿をめぐる人権問題などを念頭に置いたものとみられる。

 一方、中国の孔鉉佑駐日大使は自民党本部で開かれた「人権外交プロジェクトチーム」の会合で意見聴取の際、ウイグル族への迫害を否定し「内政不干渉」を訴えた。

 中国政府は一貫してウイグル族に対する強制労働を否定しており、現地の協力が不可欠な実態調査は極めて困難だ。「強制労働に関与している事実はない」と日本企業が断定する根拠は乏しく、国際的な懸念が広がる中、人権問題に対する企業の在り方が問われている。