新型コロナウイルス 武漢流出説の「信頼性高まる」
米で高リスク計画の存在判明
武漢女性研究員が参画
中国・武漢ウイルス研究所(WIV)の研究者を含むグループが2018年に米政府機関に提案した研究計画がこのほど、明らかになった。新型コロナウイルスの生成につながり得るリスクの高い計画が含まれていたとみられており、新型コロナの研究所流出説の信頼性を高めたと指摘される。(ワシントン・山崎洋介)
米ニューヨークに拠点を置く非営利団体エコヘルス・アライアンスのピーター・ダザック代表らが18年3月に国防総省の国防高等研究計画局(DARPA)に提出した助成金の申請書の内容が波紋を呼んだ。この申請書は、新型コロナの起源を調査するアマチュア研究者の集団「DRASTIC」が入手し9月20日に公開したもので、計画に加わる予定だった研究者には「バットウーマン(コウモリ女)」の異名を持つWIVの石正麗氏も含まれていた。
今回明らかになった申請書で特に注目を集めたのは、新型コロナの起源をめぐる論争で焦点の一つだった「フーリン切断部位」について言及があったことだ。
このフーリン切断部位は、人間への感染力を大幅に高める役割を果たすが、これは新型コロナが属する他のベータコロナウイルスには見られない。一部の専門家は、これが自然に獲得された可能性は低く、ウイルスが研究室内で人工的に操作された可能性を示す証拠だと指摘していた。
これに対して、自然発生説を支持する21人の科学者たちは9月16日に発表した論文で、進化によって自然に獲得したと説明できると主張。さらにWIVにおけるこれまでの研究で、「フーリン切断部位を人工的にコロナウイルスに挿入した証拠はない」と指摘した。
しかし、米メディアによると、ダザック氏による申請書には、コウモリから採取したコロナウイルスからフーリン切断部位を見つけ出し、それをSARS関連のコロナウイルスに挿入する計画が示されていた。
これについて、科学ジャーナリストのニコラス・ウェイド氏は「これまで武漢の研究者たちがフーリン切断部位を挿入した可能性は単なる推測だったが、SARS2(新型コロナ)ウイルスを生み出した可能性があるこの遺伝子操作について、彼らが積極的に考えていたことが今や明白となった」と指摘。流出説が「大幅に具体的で信頼できるものになった」と強調した。
DARPAは、実験に伴うリスクを十分に検討していないなどとして、この申請を拒否。しかし、ウェイド氏によると、必ずしも計画が実行されなかったことを意味するのではなく、他の助成金で行われた可能性もあるという。
ダザック氏がこうした新型コロナの起源を知る上でカギとなり得る重要な資料を公開してこなかったことについては、科学者からも批判が出ている。
フレッドハッチンソンがん研究センターのジェシー・ブルーム教授は、米ニュースサイト「インターセプト」に、世界保健機関(WHO)による武漢への調査団の一員でもあったダザック氏が「この提案を行い、こうした研究が少なくとも計画されていたことを知りながら、全く明らかにしていなかったことに本当に失望した」と不満を表明した。
また今回の件は、中国が国際的な調査や情報開示を拒む中、米国側のデータを調査することによってコロナ起源を知る手掛かりが得られる可能性を示している。
共和党のマイク・ギャラガー下院議員は声明で、ダザック氏らによる研究が新型コロナのパンデミックにつながったかを判断するため「エコヘルスと連邦政府機関は彼らの研究に関するデータや文書のすべてを公開すべきだ」と主張。ダザック氏を議会へ召喚する必要があるとも訴えた。