フランス、台湾重視へ対中政策転換

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オーカス側と関係模索か

 フランス上院議員4人が6日、台北を訪問し、7日には台湾総統府で蔡英文総統と会談した。予想されたことだが、仏上院議員団のリシャール元国防相によれば、中国から激しい抗議があったという。チェコの上院議長が台湾を訪問する時もそうだった。

フランスのルドリアン外相=1月14日、クロアチア中部ペトリニャ(AFP時事)

フランスのルドリアン外相=1月14日、クロアチア中部ペトリニャ(AFP時事)

◇中国影響工作に警鐘

 ところで仏上院は5日、「中国は、フランスで開いている孔子学院を通じて大学や学術界で組織的に政治的影響を行使している」と警告を発した報告書「大学における欧州以外からの国の影響」を発表している。同報告書は243ページに及ぶもので、アンドレ・ガットリン上院外交・貿易・軍事委員会副委員長が9月29日に上院に提出したものだ。

 米国に拠点を置く中国反体制派メディア「大紀元時報」によると、報告書は「国内外の政治家や専門家50人以上と、同国内のすべての高等教育機関を取材した上で作成された」もので、「フランスの研究機関、高等教育界は外国政府(中国)の影響を受けている」と懸念を表明している。報告書の作成責任者であるエティエンヌ・ブラン仏上院議員は「全世界で、最も組織的な影響力を行使している国だ」と中国を名指しで批判したという。

 「孔子学院」は、中国共産党の対外宣伝組織とされる中国語教育機関だ。オーストリアのウィーン大学にも「孔子学院」がある。そこで親中派の大学教授や知識人は中国共産党政府の政策を学会やメディアに広げる。中国側は定期的に教授たちを北京に招待して接待し、英語で「パンダハガー」と呼ばれる「媚中派」が誕生するわけだ。その狙いは「中国脅威論」を払拭(ふっしょく)することだ。

◇対中政策を抜本見直し

 興味深い点は、仏上院の「孔子学院」報告書に先立ち、仏国防省は9月20日、646ページに及ぶ「中国共産党政権の影響力を高める行動」の報告書を公表したことだ。同報告書では中国共産党は1948年から統一戦線をスタートし、あらゆる手段を駆使して影響力を広げる工作を実施してきたと指摘。人権弾圧、法輪功信者への臓器摘出、孔子学院を通じて大学に浸透するなど中国共産党の活動を暴露している。同報告書は仏軍事学校戦略研究所(IRSEM)が50人の専門家による2年間に及ぶ研究調査結果をまとめたもので、フランスの対中政策の柱となる報告書だ。

ブリンケン米国務長官=1月19日、ワシントン(AFP時事)

ブリンケン米国務長官=1月19日、ワシントン(AFP時事)

 米国、英国、オーストラリア(豪)が、新たな安全保障協力の枠組み「AUKUS(オーカス)」を創設する一方、米英両国が豪に原子力潜水艦の建設を支援することを明らかにすると、先の豪との契約を破棄された仏は激怒し、米仏、仏豪の関係は一時険悪化した。しかし、同時期、フランスでは対中政策の抜本的な見直しが進行中だった。

◇太平洋地域に強い関心

 オーカスで浮上した問題は、潜水艦契約違反問題だけではなく、フランスのオーカスとの関係構築への模索が始まったことだ。仏上院議員の台湾訪問団はその先遣隊ではないか。

 9月22日、米仏はバイデン大統領とマクロン大統領との電話会談で関係修復の方向で一致、ブリンケン米国務長官は5日、訪仏してルドリアン外相と会談し、豪の原潜計画で険悪化した米仏関係の修復に腐心した。一方、オーカス創設の目的、対中政策の協調について突っ込んだ話し合いが持たれたはずだ。

 フランスはニューカレドニアなどインド太平洋地域に領土を有するうえ、植民地時代に多くのアジア諸国を統治してきた国だ。今月末には米仏首脳会談が計画されており、その時、オーカス参加の意思を表明する可能性もある。ただ、英国がフランスのオーカス参加に難色を示すことが考えられる。

(ウィーン・小川 敏)