韓国 孔子学院で「共産主義洗脳」
市民団体が設置22大学に抗議
中国共産党系の海外教育機関「孔子学院」が欧米などで相次ぎ閉鎖に追い込まれる中、アジア最多の拠点を持つ韓国でも市民団体が親中人脈構築をもくろむ政治目的に危機感を募らせ、反対運動を展開している。こうした動きは10以上の大学に孔子学院を設置している日本にも影響を及ぼしそうだ。
(編集委員・上田勇実)
中国 見返りに留学生派遣
就職難の学生に内定証明も
今月2日、ソウル市内の中国大使館前で孔子学院の閉鎖を求める記者会見が行われた。横断幕には「孔子学院は共産主義、大韓民国は自由主義」の文字。会見を主催した「孔子学院の実体を知らせる運動本部」は「中国語と中国文化を掲げながら若者を共産主義に染める洗脳工作所だ」と指摘、孔子学院を設置した国内22大学に対し「全貌を明らかにして対策を立てよ」と訴えた。
同運動本部の韓民鎬代表は、本紙の取材に「文化交流という表向きは洗練されたアプローチだが、中国には少なくとも30年かけてその国に親中人脈を構築しようという思惑がある」と述べた。
ソウルで富裕層が多く住む江南の一角に世界に先駆け初めての孔子学院、「社団法人ソウル孔子アカデミー」が設立されたのが2004年。以来、六つの国立大学と16の私立大学に孔子学院が設置されたほか、中学や高校に別途設置された孔子学堂も19カ所に上り、さらにそれぞれが地元の小中高校や団体と連携して教室を開いている。
韓国の大学が孔子学院の誘致に乗り出した背景の一つには、少子化と大学乱立で経営難に陥っている地方の私立大学事情があるようだ。「定員未達で閉校の危機に直面する私立大学の足元を見て、中国は孔子学院を誘致してくれる見返りに自国から多数の留学生を派遣している」(韓代表)という。
同運動本部が昨年末にまとめた報告書によると、孔子学院で使われるテキストには中国共産党のプロパガンダが、ちりばめられている。
世界中の孔子学院用教材を一括して作成する中国教育省傘下の国家漢語国際推進指導小組弁公室(漢弁)が出したテキスト『当代 中国語』は、毛沢東主席の「沢東」は「東洋人たちに幸福をもたらす」という意味だと紹介。ジュニア用テキスト『中文』には文化大革命時代の歌曲「私の好きな天安門」が収録され、ここでも毛沢東賛美が登場する。
教養テキスト『民主的力量』の巻頭言には「西洋社会は、一党独裁を実施し世界的民主主義の動向と懸け離れていると言って中国共産党を叱責するが、こうした指摘は正確だろうか。読者に伝えたい。中国共産党の90年余りの歴史は民主主義を目標に努力し、民主主義を構築する歴史だ」とある。国際社会の常識では理解し難い強弁だ。
また報告書は、孔子学院が主催する各種文化行事の問題点も指摘している。19年に済州漢拏大学の孔子学院が主催した講座に招かれた馮春臺・駐済州中国総領事は、中国が覇権主義に基づき進める経済圏構想「一帯一路」を「人類運命共同体の構築」と宣伝した。
各中国語弁論大会では、テーマに中国共産党批判につながる可能性がある台湾、チベット、ウイグルなどに関する問題を扱った場合、本選進出を阻む「検閲」が入る。
そうかと思えば、ソウル孔子アカデミーなどが共催した弁論大会では、優勝者に副賞として大手金融機関、中国銀行のソウル支店への内定証明書が授与されたという。就職難の折、破格の待遇で韓国の若者を取り込もうとする意図が透けて見える。
「中国は危険」韓国人も実感
カナダ閉鎖事例の映画上映
2013年、孔子学院が世界で最初に閉鎖に追い込まれたカナダ・オンタリオ州のマクマスター大学をめぐる騒動を描いたドキュメンタリー映画「孔子という美名の下で」(邦題「偽りの儒教」)の巡回上映会が先月下旬、韓国10カ所で行われた。映画は16年に制作、韓国での上映会は今回が初めてだった。
主人公は海外で中国語を教えることが夢だった北京語言大学生出身のソニア趙さん。マクマスター大学の孔子学院講師として派遣され、そこで体験した言論の自由や思想・信条の自由に対する統制、自身が実践する中国気功集団「法輪功」への弾圧などに苦痛を感じ、地元当局に告訴した。
現地の華人社会が孔子学院閉鎖に反対する中、州都トロントの教育委員会は閉鎖決議案を圧倒的多数で可決、孔子学院とのパートナーシップ協約の中止が宣言される…。
映画は閉鎖された孔子学院にスポットを当てたものだが、実際にはまだカナダで数多くの孔子学院が運営されている。全世界の孔子学院に割り当てられる中国政府の予算は年間360億㌦以上だといい、閉鎖に反対する学院関係者の多くはこうした資金の恩恵を受けているとみられる。
韓国の場合、カナダのように孔子学院をめぐり人権蹂躙(じゅうりん)や違法行為が発覚したわけではなく、中国共産党のプロパガンダが繰り返されても閉鎖を求める法的根拠はない。文在寅政権は中国への経済的依存度の高さや朝鮮半島情勢への影響力などを理由に中国の顔色をうかがうかのごとき政策を取る。孔子学院の問題を国会議員たちに訴えても反応は芳しくないという。
中国との関係を考慮してか、孔子学院の実態に迫ろうとする大手メディアは見られず、報道しても他国の動きが中心で、市民団体が孤軍奮闘しているのが現実だ。
「孔子学院の実体を知らせる運動本部」の韓民鎬代表は「最近の世論調査にも表れている通り、中国の韓国に対する高圧的な態度に韓国の国民は反感を抱き始めた。『中国は危険』ということを体験的に実感している。市民社会の力で機運を高めていきたい」と述べた。

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