実父の祖国も「黙れ」と反発

オバマのLGBT外交 米国と途上国の「文化戦争」(5)

ケニア

 オバマ米大統領は昨年7月、就任後初めて実父の出身国ケニアを訪問した。ケニア国民の間で高い人気を誇るオバマ氏だが、訪問は必ずしも全面的に歓迎されたわけではなかった。

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昨年7月25日、ケニア・ナイロビで開催された「国際起業家サミット」に出席したオバマ米大統領(左)とウフル・ケニヤッタ・ケニア大統領(米国務省提供)

 「オバマ氏がケニアに来て中絶や同性愛の問題を取り上げようとするなら、われわれはこう言おう。黙れ、家に帰れ、と」

 オバマ氏訪問の数週間前、首都ナイロビでは同性愛・同性婚に反対するデモ行進が行われた。与党議員のイルング・カンガタ氏はデモ参加者の前で、オバマ氏が同性愛問題を議題にする意向であれば、ケニアに来なくていいとまで言い切ったのだ。

 同年5月には、ケニアのキリスト教福音派牧師約700人が、オバマ氏に同国で同性愛問題について“説教”しないよう要求する公開書簡を発表。キリスト教界は訪問が同性愛・同性婚の押し付けに利用されることに神経を尖(とが)らせた。

 公開書簡を主導した「ケニア福音派同盟」のマーク・カリウキ会長は、メディアに「家庭こそ国家の力だ。家庭が破壊されれば、国家は破壊される。われわれは国家を破壊する門を開くわけにはいかない」と語り、同性愛・同性婚の押し付けはケニアを破壊する行為に等しいとの認識を示した。

 こうした声にもかかわらず、オバマ氏はウフル・ケニヤッタ・ケニア大統領との共同記者会見で「誰を愛するかによって異なる扱いをすることは間違いだ」と“説教”し、同性愛者の権利擁護を要求した。

 これに対し、ケニヤッタ大統領は「共有しない価値観がある」と拒否し、「同性愛者の権利の問題は重要な問題ではない。医療やインフラ、教育など国民の日常生活に関わる分野に焦点を当てたい」と主張した。

 公の場でオバマ氏がアフリカ首脳から同性愛問題で反論を受けるのはこれが初めてではない。2013年には、マッキー・サル・セネガル大統領との共同記者会見で、オバマ氏が同様の“説教”をすると、サル氏は「同性愛行為を合法化する用意はない」と明言。セネガルが廃止した死刑を米国を含む多くの国々が維持していることについて、サル氏は「われわれは各国の選択を尊重する」と強調し、米国も他国の選択を尊重するよう“逆説教”した。

 米保守系誌アメリカン・スペクテーターの寄稿編集者ジョージ・ニューマイアー氏は、米国で同性愛者の権利拡大に伴い、伝統的道徳観・結婚観を支持する人々の信教・言論の自由が否定される事例が相次ぐ中で、オバマ氏がアフリカ諸国に人々を差別的に扱うことは自由を失う道だと説いたことは「滑稽だ」と指摘。「オバマ氏が要求する道はその名に値する平等ではなく、道徳の退廃と宗教の衰退に終わることを、アフリカ諸国は理解している」と断じる。

 「オバマ氏は同性愛アジェンダでキリスト教国家として知られた米国を破壊している。米国は今や別の国になってしまった」。ケニア福音派同盟のカリウキ会長はこう語ったが、米国の二の舞いにはなりたくないとの感覚がアフリカ諸国の態度を一段と硬化させていることは否定できない。

(ワシントン・早川俊行)