論理性欠く沖縄「平和教育」
悲劇の原因究明を怠る
世界史的観点からの考察必要
今年も沖縄の終戦記念日である6月23日がやってきた。
糸満市摩文仁の平和祈念公園では今年も県と県議会が主催する沖縄全戦没者追悼式が執り行われ、安倍晋三首相や翁長雄志沖縄県知事をはじめとした県内外からの遺族や関係者ら約5100人が参列したという。
毎年6月になると、沖縄の新聞やテレビは「慰霊の日」特集を組み、毎日のように沖縄戦に関する記事や番組が掲載・放送される。沖縄に住む私たちはむしろ、テレビで沖縄戦に関する番組が増えると「そういえば今年ももう6月なのだ」と気が付くようになるという感じである。
小中高校でも毎年6月になると「平和教育」が行われる。廊下や図書館には、沖縄戦関連の写真が張り出され、沖縄戦を経験した方から直接お話を伺うという特別授業(講演)を行う学校も多い。これは私が小学生であった50年前からほぼ変わらない沖縄の学校の6月の風景である。
しかし、私はこの「平和教育」に大きな違和感を持っている。
理由の一つは論理性の欠如である。
沖縄で行われている「平和教育」は、沖縄戦がいかに悲惨であったか、いかに残酷であったかを示し、「だから再び戦争は絶対に起こしてはいけない」と子供たちに言わせることを目的としている。だからそのほとんどが、悲惨な経験をした人の話を聞くとか戦争で亡くなった人の写真を見せることだけになってしまっている。
それで本当に戦争を防ぐことができるのだろうか。
悲劇を繰り返さないためには、まず、その悲劇がなぜ起きたのかを知らなければならない。とするならば、73年前になぜ沖縄が戦場になったのか?なぜアメリカと戦争することになったのか?ということを世界史的な観点から調べて考えることが重要になってくるはずである。
もちろん悲惨だった沖縄戦の実態を知ることから始めなければならないだろう。ところが、沖縄の「平和教育」は、それ自体を目的化し、そこで終わってしまっているのだ。
「戦争は悲惨である。だから二度と戦争を起こしてはいけない」は、「ではどうすればそれが実現できるのか」というシビアな問題へと発展させなければ「平和教育」ではない。そうでなければ、むしろ「戦争教育」と呼ばざるを得ないものだろう。そう、沖縄で毎年行われているのは、「(沖縄)戦争教育」なのだ。だから、「悲惨な沖縄戦」からいきなり「今も残る沖縄の米軍基地」となってしまうのである。そこには、73年の年月とともに論理の飛躍がある。
さらに、もし本気に「平和教育」を行うのであれば、世界史の知識に加えて、そもそも「平和とは何か」「戦争とは何か」という根源的なことも学ばなければならない。
その問いがない「平和教育」を受けた子供たちは、平和が「戦争がないこと」だと思い込んでいる。もう何十年も国内に動乱や飢餓がなかった日本の子供たちは、戦争さえ起きなければ「平和」だと思っているのだ。いや、それを教える先生や大人たちも同じである。
私が「論理性の欠如」だと思うもう一つの理由は、沖縄戦そのものの解釈にもある。
いわゆる「集団自決」をはじめとする沖縄戦の悲劇の要因を、「軍国主義に翻弄されたかわいそうな沖縄県民」という構図で説明しようとするが、私たち沖縄県民が反省し改めるべき点はないのだろうか。沖縄県民が「かわいそうな被害者」だったということだけで、次の戦争を防ぐことができるのだろうか。
例えば、「自決派」と「反自決派」のいさかいの後、避難民約140人のうち83人が「集団自決」で亡くなる(『読谷村史』第5巻)というチビチリガマでの惨事を、「集団自決に追い込まれたかわいそうな村民」として教えるのと、同じ読谷村の、「ハワイからの帰国者、比嘉平治(当時72歳)と比嘉平三(当時63歳)の2人が、『アメリカーガー、チュォクルサンドー(アメリカ人は人を殺さないよ)』と、騒ぐ避難者たちをなだめ説得して、ついに投降へと導き、1千人前後の避難民の命が助かったという」(読谷バーチャル平和資料館)シムクガマとの違いはなぜ起きたのかと考えさせるのとでは、全く異なった「平和教育」になってしまう。
1959(昭和34)年に沖縄取材に来たジャーナリストの大宅壮一は、南部戦跡を見て学徒隊などの犠牲の実態を「動物的忠誠心」「家畜化された盲従」と批判し痛烈な沖縄批判を行った。当時の沖縄のマスコミや知識人はそれに猛反発したが、今ではそのことは忘れられようとしている。しかし、本当にそれでいいのだろうか。
先日、摩文仁の平和祈念資料館を案内した友人が、入り口近くにある沖縄戦で亡くなった方々の遺体の写真を見て、「これを小学生に見せているのですか?」「この写真から生まれてくるのは憎しみであって平和を愛する心ではないのでは?」という疑問を投げ掛けていた。私は、その言葉に沖縄の現在の「平和教育」が象徴されているように思えてならない。
(みやぎ・よしひこ)