不発に終わった「野党共闘」
東洋学園大学教授 櫻田 淳
誠実、公正、謙譲の美徳欠く
「観念主義」思考を嫌った国民
今次総選挙に際して、筆者が注目していたのは、「立憲民主党と共産党を軸にした『野党共闘』は、どのような成果を生むのか」ということであり、「日本維新の会、あるいは国民民主党が、どこまで党勢を持ちこたえることができるのか」ということであった。それは、「憲法第9条護憲主義」と呼ぶべきものへの帰依を特色とする日本型「左翼・リベラル」政治勢力の命脈を占うものであったからである。
結果は、立憲民主・共産両党は党勢を後退させた一方、日本維新の会は議席3倍増の躍進を遂げ、国民民主党も現有議席を保った。立憲民主・共産両党を軸にした「野党共闘」は、不発に終わったのである。
「他人の仕事」を敬わず
実際、「共同通信」世論調査(11月1、2両日実施)の結果は、「野党共闘」の今後について、「見直した方がいい」が61・5%、「続けた方がいい」が32・2%という評価を伝えている。「野党共闘」に対するネガティブ評価が6割を超えるという事実が意味するものは深い。「野党共闘」は、それに関わった人々がどのように自己評価しようとも、結局のところは、「人心を得ない」政治判断であったという評価になるからである。
長谷川如是閑が示した通り、日本が「職人の国」としての相貌を持つならば、「他人の仕事」に然(しか)るべき敬意を表さず、ただ噛(か)み付くだけの姿勢は大概、嫌われる。
立憲民主党を含む「野党共闘」参集諸党には、そうした姿勢が露骨に表れていた。たとえばワクチン確保に精励した菅義偉(前内閣総理大臣)の「他人の仕事」に然るべき敬意を表した上で、足りないところを指摘するという姿勢が世に伝えられていたならば、彼らの主張が、これほどまでに人心を得ないということはなかったと思われる。
現下の新型コロナ・パンデミック(世界的大流行)最中、自前でのワクチン開発を成就できなかった日本が、現今ではG7(先進7カ国)諸国中でも最上位のワクチン接種率に達しているのは、紛(まご)うことなき菅の功績である。要するに、「野党共闘」参集諸党は、イデオロギー云々(うんぬん)以前に、自らの政治姿勢において誠実、公正、謙譲という美徳を世に伝えるには至らなかったのである。
ところで、「朝日新聞」記事(10月20日配信)に拠(よ)れば、「野党共闘」を裏で仕掛けたのは、「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」(市民連合)なる名称の市民団体であったようである。「市民連合」なる名称の団体に関わった人々は、此度(このたび)の「野党共闘」不発という選挙結果をどのように評価するつもりであろうか。
そもそも、特に立憲民主党が「市民連合」なる団体の主張や提案に正直に乗ったということ自体が、「野党共闘」不発の原因であった。「市民連合」なる団体は、どこまでも市民団体であって、政治の帰趨(きすう)に直截(ちょくせつ)に責任を負うわけではない。そうした市民団体の主張や提案に寄り掛かって何かをしようとしたところに、立憲民主党の不見識がある。
選挙期間中の報道を観(み)ると、この「市民連合」という名前自体は、共産党が「共産党色」を薄めるための術策として使われていた。立憲民主党は、こうした事情を適宜、把握していたであろうか。
結局のところは、パンデミック最中においてでさえ、「憲法第9条護憲主義」に絡む「観念主義」思考に耽(ふけ)っていたのである。それは、「対決よりも解決を」を標榜(ひょうぼう)した国民民主党の姿勢とは明らかな対照を成す。そして、長谷川如是閑は、こうした「観念主義」思考を嫌ったのである。
末路に近づいた「共闘」
「朝日新聞」記事(11月2日配信)が伝えたところでは、松井一郎(日本維新の会代表、大阪市長)は、「国会で来夏の参院選までに憲法改正原案をまとめて改正を発議し、国民投票を参院選の投票と同じ日に実施するべきだとの考えを示した」とのことである。「野党共闘」の末路にある事態は、確かに近づいているのであろう。
(敬称略)
(さくらだ・じゅん)






