米国民と議会をだましたファウチ氏 文民統制を重視し解任を
エルドリッヂ研究所代表、政治学博士 ロバート・D・エルドリッヂ
民主主義にとって危険な人物
70年前の1951年、朝鮮戦争の最中、米国大統領のハリー・S・トルーマンは、指揮官の元帥ダグラス・A・マッカーサーを解任した。ワシントンや全米をはじめ、多くの人たちはショックを受けた。マッカーサーは、絶大な人気や影響力を持つ連合国最高司令官として対日占領も担当したことから、日本人にも大変な衝撃を与えた。
解任は突然だったが、その6年前、大統領フランクリン・D・ルーズベルトの死去に伴ってトルーマンが大統領になった頃から関係は必ずしも良かったとは言えない。48年の大統領選の時、野党の共和党がマッカーサーを候補にする動きがあったことも関係を悪化させたことに違いないが、最初からマッカーサーはワシントンの影響が及ばないよう、独自で政策を作って判断し、政府からの指令を勝手に解釈するか、あるいは無視するとされていた。さらに政権や政治家の批判もしていた。
マスクや研究支援で嘘
マッカーサーは能力があったが、政治的な動物でもあったので、文民統制を重視するアメリカにおいては、簡単に許すことができなかった。トルーマンにとって我慢の限界が来たのは、マッカーサーが参戦していた中華人民共和国に核兵器を使用すると発言した時だった。
次元こそ異なるが、今日、解任すべき人がいる。それは、米国で首席医療顧問を務めているアンソニー・ファウチだ。
84年以来、米国立アレルギー感染症研究所(NIAID)の所長を務めてきた。ドナルド・トランプなど6人の大統領に仕えてきたが、コロナ対策でかつてないほどの批判の対象になっている。
その批判は正しい。コロナ対策はめちゃくちゃであり、それをめぐる情報も混乱だらけだ。それ自体は仕方がないかもしれないが、多くの原因はファウチにある。
まず、彼は、少なくとも、三つの重大な嘘(うそ)をメディア、国民、そして、その代表である議会に言ってきたが、字数の制限でここでは二つを紹介する。
第1に、マスクに関するものだ。効果に関するさまざまな議論があるが、ファウチは、「まったく効果がない」と取材で強調したが、その後、それを「誤りだ」と認めた。さらに、その際、彼は「マスク不足のため、国民が買わないようにするため」の嘘だったとまで述べた。
二つ目の大嘘は、NIAIDは、中国・武漢における「ゲイン・オブ・ファンクション(機能獲得型)」の研究を支援していないと語ったことだ。しかしながら、それは多くの資料や証言でその事実を隠蔽(いんぺい)してきたことが分かった。
嘘を意図的、計画的に言うのは悪いことであるのは言うまでもないが、場合によって、その助言を信じて行動した国民の多くはその後、感染し、死亡したという意味で、非人道的で犯罪と断言できる。
犯罪であるのは、もう一つの側面がある。議会における証言は真実でなければならない。そう誓っているが、ファウチはわざと嘘をいうのは、議会に対する違反で重大な犯罪であり、刑務所に入るに値する。
そもそも、ファウチが無能であるとの批判は、専門家の間で長年指摘されてきた。サイエンティスト(科学者)というより、絶対的な権限を持ちたいアドミニストレーター(管理職)だ。
最近、議会における嘘やメディアでの暴言は目立っている。特に、議員に対して、専門外の政治的な発言を展開している。
さらに、最もおかしな発言に、「私を批判することは、サイエンスを批判しているのと一緒」だというのがある。それは違う。サイエンスは、より正しい解答や仮説が生まれるために検証と批判を繰り返すものである。批判ができなければ、サイエンスの発展はない。
偽証に対し罰金・収監を
コロナはある種の戦争だ。文民統制を重視するなら、大統領ジョセフ・バイデンは即時にファウチを解任し、そして裁判は同氏の議会での偽証に対して罰金と収監を命じるべきだ。その上で、政治的な立場ではなく、サイエンスを重視する新しい顧問を採用すべきだ。さらに、40年間近く、所長を務めたNIAIDの運営を検証し、腐敗などがなかったかを調べるべきだ。
ファウチは、民主主義、サイエンス、そして感染病対策などの公共医療政策に対して極めて危険な人物だ。
(敬称略)