温かい話題の「脱北者」ー台湾から
最近、台湾で「脱北者」が急増――。
そんなニュースを見ても、北朝鮮から脱出した人が海を渡って台湾にまで押し寄せている、と勘違いしてはいけない。台北市や隣接する新北市などの「北部」を離れる人たちを「脱北者」と呼ぶのだ。言葉遊びが好きな台湾人ならではの表現である。
日本でも東京への一極集中が問題視されたように、台湾でも進学や仕事のために首都である台北を目指す若者は多かった。とはいえ、高騰する家賃や物価上昇の一方で、給与水準はなかなか上がらず、年若い友人は「家賃のために働いている」とさえこぼすように、都会暮らしは決して華やかさばかりではないのが現実である。
こうした風潮に加え、近年のネット技術の進化が「脱北」のハードルを下げるようになった。ネット環境とパソコンさえあれば、必ずしも毎日台北のオフィスで勤務する必要はない。台北を離れれば、家賃も安く、子供の保育園の抽選に一喜一憂することもなく、郊外でゆったりと生活することも可能となった。
さらに、コロナ禍も大きな影響を与えた。そこは家族との絆を大切にするお国柄。家族と共に過ごす、という価値観がもう一度見詰め直される機会となったようだ。
都会暮らしをやめて故郷の家族の元に戻り、リモートで働きながら、必要なときだけ台北に出勤するという働き方もみられるようになったという。台湾の「脱北者」は家族の絆を取り戻す温かいニュースだった。(H)