リムパック参加に期待


「台湾有事」のシナリオ―日米台識者に聞く(11)

台湾国防安全研究院准研究員 林彦宏氏(下)

 林彦宏 1977年、台湾生まれ。淡江大学で修士号、早稲田大学を経て岡山大学で博士号を取得。岡山大学講師、中正大学戦略及国際事務研究所助教授などを歴任。現在、台湾国防部(国防省)傘下のシンクタンク、国防安全研究院で准研究員を務める。

中国が軍事侵攻してきた時の防衛戦略は。

 中国をゾウに例えるなら、台湾はアリだ。だが、アリは小さくても、たくさんいればゾウの足に痛みを与えることは可能だ。台湾軍は陸海空合わせて20万人前後と少ないため、できるだけ機動性の高い部隊をつくって中間線を守りたい。絶対に攻めて来られないようにさまざまなシナリオを考えている。

 しかし、台湾がいくら最先端の兵器を持っても勝つことはできない。友人を呼ぶ必要がある。最大の友人は米国だ。だが、米国だけでは足りない。そこで重要になるのが日本だ。

 台湾海峡危機は台湾だけの問題ではない。周辺各国に関わる問題であり、一緒にこの地域の平和と安全を守るために責任を分担していく必要がある。

安倍晋三元首相が「台湾有事は日本有事」だと主張したが。

 台湾有事が日本有事であることは、地政学的に誰の目からも明らかだ。台湾は与那国島から110㌔しか離れていない。

 安倍氏の発言には二つの意図があると思う。一つは台湾の危機は日本の危機であることを日本国民に知らせること。もう一つは、岸田文雄首相と林芳正外相にあまり中国に接近するなという牽制(けんせい)ではないかと私は見ている。

 日本もはっきり立場を表明しないといけない時期に来ている。日本にとって、これまで一番大きな脅威は北朝鮮だった。それが今は中国に変わった。中国海警局の船は毎日のように尖閣諸島周辺にやって来ている。日本は政策を変えなければならないが、そのためには政治家の発言も変わらなければならない。

台湾が日本に期待することは。

リムパック[RIMPAC]2010

リムパック[RIMPAC]2010(Wikipedia-U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 3rd Class Dylan McCord)

 台湾で昨年行われた世論調査では、約6割が「日本は台湾有事に自衛隊を派遣するだろう」と回答した。だが、実際には自衛隊の出動には極めて高いハードルがある。安倍政権時代の2015年にさまざまな条件を付けて集団的自衛権の行使が可能になったが、日本はおそらく憲法改正を行わない限り、米軍の後方支援しかできないだろう。

 一方、米国は、ハワイ周辺で行われる多国間海上訓練「環太平洋合同演習(リムパック)」に台湾を招待することを米政府に求める文言が盛り込まれた国防権限法を成立させた。これは極めて大きい。実際に米国から招待されれば、どんな形であれ、日米など他の国々の海軍と交流できる。

 戦争はテレビゲームではない。有事に各国が協力するには、訓練が必要だ。台湾軍はリムパックに招待されるために全力で準備をするだろう。

 また、日台防衛当局の連絡体制を構築することが必要だ。最初から軍事レベルに持っていくのは大変であり、海上保安庁と台湾の海巡署の協力から始めてはどうか。米台は昨年、沿岸警備隊と海巡署が協力を強化する覚書に調印しており、日本もできるはずだ。

 6年以内に中国が台湾に攻めてくるとの予想もあるだけに、この間に周辺各国の政治家が知恵を絞らなければ、地域の平和と安全は守れない。

日本版「台湾関係法」の制定が期待される。

 私たちも日本版台湾関係法の成立を期待している。ただ、日本には親中派議員が多くいるので、ハードルは高い。

 一方、自民党では昨年、外交部会の下に「台湾政策検討プロジェクトチーム」が設置された。外務省にも台湾問題を扱う企画官ポストがアジア大洋州局中国・モンゴル第1課に新設されることが決まった。台湾関係法が制定される前でも、政治家の働き掛けで各省庁に台湾関係のポストができれば、重要な政策を推し進めることができる。

(聞き手=編集委員・早川俊行)


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