日本に武力行使を期待も


「台湾有事」のシナリオ―日米台識者に聞く(4)

米ランド研究所研究員 ジェフリー・ホーナン氏(下)

 Jeffrey Hornung 米ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院(SAIS)で修士号、ジョージ・ワシントン大学で博士号を取得。国防総省の研究機関、アジア太平洋安全保障研究センター(ホノルル)准教授、笹川平和財団米国研究員などを経て、2017年から現職。

米国が介入を決めた場合、どのように台湾を防衛するか。

 在日米軍基地なしに作戦が成功することは考えられない。もし米国が空母やハワイやグアムなどからの航空戦力によって台湾防衛をする場合、弾薬の補充なしに行うことは困難だ。それには、グアムや空母に戻るより、日本の基地の方がずっと早い。

 中国によるミサイル攻撃や上陸作戦、航空作戦などの台湾侵略シナリオにおいて、米国は水上艦と潜水艦に大きく依存することになり、米海軍が大きな役割を果たす。

 空軍も大きな役割を果たすが、遠く離れた場所から台湾海峡にミサイルを発射することになるだろう。米国が制空権を確保できるまでは、中国には戦域に近いという地の利があるからだ。

 海兵隊や陸軍のような地上軍を台湾に送ることはないだろう。もし米国が垂直離着陸輸送機オスプレイを使って海兵隊を現地に配置しようとすれば、空中で撃墜されやすく、上陸できたとしても攻撃にさらされることになるだろう。

台湾有事の際、米国は日本にどのような役割を期待するだろうか。

鹿児島・奄美大島に米軍のPAC3を初展開

視察後に共同記者会見する陸上自衛隊トップの吉田圭秀陸上幕僚長(左から2人目)と、ヴァウル在日米陸軍司令官(右端)=1日、鹿児島県奄美市の陸自奄美駐屯地(陸上自衛隊提供・時事)

 最も基本的なこととして、台湾を守る戦闘作戦のために在日米軍基地の使用を日本が認めることが期待される。日本が攻撃を受けていなければ、日本との事前協議が必要になる。

 次の段階は、後方支援への期待で、燃料補給や関東地方から南西諸島への輸送を支援することだ。海上自衛隊の哨戒機P3CやP1などによる情報・監視・偵察(ISR)活動やイージス護衛艦と地上配備型迎撃ミサイル・パトリオット(PAC3)による米軍と日本の基地の防衛も期待される。

 さらに次の段階として、後方支援を超えて、自衛隊による武力行使を期待する可能性がある。ただ、台湾の防衛ではなく、例えば、戦域近くでの艦船や航空機のエスコートなど米軍の防護を行うことだ。

 また、南西諸島周辺で中国の艦船を標的とした対艦巡航ミサイル攻撃や、海上自衛隊の潜水艦を使用して中国の艦船を沈めること、さらに南西諸島でチョークポイント(海上の要衝)を押さえ、中国軍が太平洋に進出することを防ぐことだ。

 米国は、日本の法律で何が許容されるのか、確実に把握している。日本が台湾海峡に行き、海上自衛隊が中国軍による侵略を阻止したり、戦闘機のF35やF15が台湾上空で中国軍と交戦することを期待しているとは思わない。むしろ、日本の領土防衛や日本周辺の米国の軍事資産を守ることを期待している。

中国による台湾併合を防ぐために日米は何ができるか。

 日米は、他の友好国と共に、今行っていることをさらに強化することが大切だ。

 ここ1年で、日本が台湾への支持を明言するようになったのは非常に良いことだ。日本が「台湾海峡の平和と安定」に関心があると述べることで、今や中国の軍事計画担当者は日本が関与することについて考える必要が出てきたからだ。

 これにより初めて中国を守勢に置くことになった。政府高官を台湾に送ることや国際機関でオブザーバーの地位を与えることにより、中国はどの国が関与するかについて考えざるを得なくなる。

 一方、米国は台湾への武器移転を続けることが重要だ。日本を含め他の国も関与すべきだと考える人もいるが、米国は台湾と安全保障上の同盟国であった歴史があり、その観点から米国が行う方が容易だ。

(聞き手=ワシントン・山崎洋介)


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