危険な中国の極超音速兵器


「台湾有事」のシナリオ―日米台識者に聞く(9)

元米太平洋軍統合情報センター作戦本部長
カール・シュスター氏

元米太平洋軍統合情報センター作戦本部長 カール・シュスター氏

Carl Schuster 1974年に米サウスカロライナ大学卒業後、米海軍に入隊。太平洋軍統合情報センター作戦本部長などを務め、99年に大佐で退役。現在、ハワイ太平洋大学講師と共に防衛コンサルタントを務める。

中国による台湾統一の戦略は。

 現在実施している台湾を経済的かつ外交的に孤立させる試みが、中国にとって第1の選択肢だ。中国は世界第2位の経済規模を持つという強みを利用することで、台湾が統一を拒否することへの代償を与えられるからだ。

 軍事作戦を決断したとすれば、まずはミサイル攻撃を行うだろう。上陸作戦はリスクが高いので、先に台湾の防衛能力を削(そ)ぐ必要があるからだ。

 だが、中国は大きな賭けをしない。台湾の防衛力が強固で、失敗するリスクが高いと判断すれば、中国は軍事オプションを用いないだろう。

中国が台湾有事の際に、尖閣諸島の奪取を試みる可能性は。

 中国はまず先に南シナ海を確保しようとする。それによって中国は日本と台湾に圧力をかけられるようになるとともに、米国の力も縛ることができるからだ。

 尖閣諸島はその方程式の一部だ。すでに南シナ海を支配した上で尖閣諸島を占領すれば、台湾を封鎖できるようになる。

米国が台湾有事に介入するとしたら、どのように行うか。

 米国が介入するきっかけの一つは、米国が行う台湾への武器輸送になるとみている。中国が台湾を攻撃した際に、米国は弾薬や装備などの武器輸送を加速させる。もし中国がそれを妨害した場合、米国は戦争に参加することになるだろう。

 その場合、中国による台湾へのミサイル攻撃と空爆に対抗するため、空軍力と弾道ミサイル防衛による支援を行うだろう。空母はおそらく、空軍の作戦を支援するための援護爆撃をすることになる。

米国は日本にどのような役割を期待するか。

 最低限の期待は、日本にある米軍施設の使用を認めることだ。また、日本が領土と基地を守り、米軍が台湾に集中できるようにすることを期待するだろう。

 海上自衛隊は、中国の潜水艦に対抗する上で、非常に重要な助けになるだろう。ただ、日本が自国の領空領土の防衛を引き受けるなら、それで十分だと考えている。

 空域や台湾への輸送ルートを守るために、沖縄県の南西諸島に自衛隊の部隊を配備することはあり得る。だが、自衛隊は国外に投入するようには構想されておらず、台湾に派遣することは想像できない。

日米は台湾有事を抑止するために何ができるか。

 まず、すでに始まっていることだが、日本の指導者たちが台湾の運命が日本の運命と結び付いていると公式に発表することだ。また、日本は国防費を増やすとともに、台湾有事に対して実戦に即した演習を行うことだ。

 米国も国防費を増やす必要がある。中国は少なくとも初期段階の極超音速兵器を開発した。米国は極超音速兵器と共に指向性エネルギー兵器の開発を加速し、艦船の性能を高める必要がある。

中国の極超音速ミサイルは台湾有事にどう影響するか。

 極超音速兵器は縦横両方向に操作できるなど予測が困難な上に、少なくとも毎分50~70カイリ(93~130㌔㍍)の速度を持つ。台湾海峡の幅は距離が短く、中国本土の海岸から100カイリの場所から発射された極超音速ミサイルはその3分後に台湾に到達する。

 この時、迎撃ミサイルの発射を決めるための時間が約20秒しかなく、防空上の意思決定に大きなストレスを加える。これが、極超音速兵器が非常に危険であると考えられている理由だ。

(聞き手=ワシントン・山崎洋介)


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