併合の野望強める習主席 軍事・政治両面から侵攻模索
台湾海峡情勢が緊迫化している。中国が台湾に侵攻する「台湾有事」はもはや、「起きるかどうか」ではなく「いつ、どのように起きるか」を想定しなければならない段階に入った。考えられるシナリオや求められる備えについて、日本、米国、台湾の識者に聞いた。
前統合幕僚長 河野克俊氏(上)
台湾有事の危険性が高まりつつある。
根底にあるのは中国の急激な軍拡だ。特に台湾海峡をめぐる地域において米中の軍事バランスを見ると、少なくとも海軍艦艇の数では完全に中国が上回っている。米中の軍事バランスがこのまま行くと中国有利に傾き、台湾への軍事侵攻の誘惑に駆られる可能性がある。
習近平主席は今年、3期目を迎えるが、もしそこで台湾併合を成し遂げたとなれば毛沢東のように生涯トップで居続けることもできる。これは彼の政治的野心を焚(た)きつける一つのテーマでもある。
中国優位の軍事バランスがいつまでも続くとは限らず、さらに中国は2028年ごろをピークに人口の減少も予想されている。この機を逃せば一生できないと考えているかもしれない。
考えられる台湾侵攻のシナリオは。
大きく分けて三つのシナリオが考えられる。一つは、軍事バランスが完全に中国優位になり、米国の介入も抑えられると判断して直接軍事侵攻するケースだ。中国にとってはこれが一番手っ取り早いだろう。
しかし、そうは言っても、さまざまなリスクを考え、直接侵攻は難しいと判断すれば、二つ目として、ロシアがクリミア半島を併合した時のような「ハイブリッド戦」を駆使してくるだろう。これは正面から軍事力を行使するのではなく、サイバー攻撃やフェイクニュースを流すなどして社会に混乱をもたらし、台湾を分裂させるやり方だ。
三つ目は、台湾が施政権を持つ離島に侵攻する。台湾では離島を奪還しなければならないと主張する人もいれば、そんな離島のために中国と戦争するのかと言う人もいるだろう。もうこの時点で分裂してしまう。つまり中国は離島を奪取することによって、台湾に直接侵攻することなく、人々の心を分断し、その隙に併合するというやり方だ。
後者二つについては、台湾内に親中国の臨時革命政府のような組織を樹立して、その要請で中国が軍事介入するという形を取るだろう。そうすれば、問題を「内政」とできるので、なかなか米国も介入できないと考えているかもしれない。
ただ、これらはあくまでも分析であって、絶対このような動きになると決めてかかるのは危ない。軍事的な面だけではなく、政治的な側面からもさまざまな可能性を考えながら備えておく必要がある。
中国が上陸作戦を行う際、新兵器を使うことが予想される。
やはり台湾内部を完全に制圧してから上陸した方が損害が少ない。そういう意味でサイバー戦や電磁的な攻撃でさまざまなインフラを止めてしまう。その段階で台湾が白旗を揚げたらその時点で終了となる。一気に上陸するよりも、そのような形で新しいタイプの戦争のやり方を先行させる可能性は高い。
着上陸侵攻に対する備えはできているか。
そもそも中国と台湾とでは軍事力の規模が全然違い、台湾のみでは中国に太刀打ちできないのが現状だ。ただ、台湾を一つの島として見た時、上陸できる箇所は幾つかに限られている。恐らく、これらの場所は台湾側も防備を固めているはずだ。また、ミサイル攻撃に備え、航空施設の強靭(きょうじん)化なども進めているだろう。しかし、中国は圧倒的な兵力でもって攻めてくることは間違いない。
(聞き手=政治部・川瀬裕也)
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