3月9日 韓国大統領選 保革一騎打ち 大接戦も
朴槿恵氏赦免で影響か
3月9日に実施される韓国大統領選挙では、革新系の与党「共に民主党」が公認する李在明・前京畿道知事(57)と保守系の野党「国民の力」が公認する尹錫悦・前検事総長(61)による事実上の一騎打ちになる公算が大きい。
選挙まで約2カ月に迫ったが、相次ぎ不正疑惑が浮上した文在寅政権に対する審判世論が過半数を占める中にあっても、基本的に文政権の政策を踏襲する可能性が高い李氏の支持率と政権交代を訴える尹氏の支持率は拮抗している。このまま大接戦にもつれ込む可能性もありそうだ。
国内ではワクチン2回接種者の、いわゆるブレークスルー感染などで新型コロナウイルスの感染者が急拡大している上、オミクロン株の流入もあり、文政権が自負してきた「K防疫」に批判が集まっている。経済では高騰し続ける不動産価格の抑制に失敗、国民の間には不満が募る。
外交も最大懸案のはずの北朝鮮の非核化に向けて仲介役を果たそうとした米朝交渉が決裂して以降、これといった成果を挙げられないままだ。過度な対北融和姿勢、戦後最悪と呼ばれるほどまで悪化させた日本との関係などをめぐっても、保守派は政権交代の必要性を強く訴えている。
だが、こうした内外の課題はあまり選挙戦の争点になっていない。それよりも相手候補の家族をめぐる不道徳な行いを論(あげつら)うネガティブ合戦がエスカレートしている。李氏の息子をめぐる賭博や買春の疑惑、尹氏の妻の経歴詐称疑惑などが連日のように報道され、それを見せられる有権者たちは辟易(へきえき)気味だ。その影響か、誰に投票するか留保したいと考える有権者も増えているのが実情だ。
これまで韓国の大統領選は、地域感情の対立がそのまま保革対立として現れてきた。今回も南西部の全羅道が革新系の李氏を推し、南東部の慶尚道が尹氏を推しており、それぞれが全有権者の約3割を占める岩盤支持層だ。勝敗を決するのは残り約4割の浮動票と言われ、その奪い合いになる構図は変わらない。
李氏の場合、市長時代に手掛けた新都市開発をめぐる大型不正疑惑に自ら関わっていたのではないかという問題がくすぶっている。不動産問題は国民の感情を逆なでしやすく、疑惑の関係者2人が相次ぎ自殺に追い込まれ、李氏にとっては逆風が続く。一方の尹氏は、国民の力の代表が兼任していた選挙対策委員長を辞任するなど内紛を抱え、それがイメージダウンにつながっている。
文政権は昨年末、国政介入事件で弾劾・罷免された後、有罪となって収監されていた朴槿恵前大統領を電撃的に特赦した。また来月行われる北京冬季五輪では何らかの形で南北融和が演出されるとの観測もある。これらは文政権が「大統領選直前に野党陣営を混乱させたり、与党候補に有利な世論を形成しようという選挙用カード」(元韓国政府高官)との見方もある。
入り乱れる疑惑噴出や選挙用カードがいずれの候補に吉と出るのか。最後まで目が離せない。
(ソウル・上田勇実)