戦意喪失図る偽情報工作


「台湾有事」のシナリオ―日米台識者に聞く(3)

米ランド研究所研究員 ジェフリー・ホーナン氏(上)

 Jeffrey Hornung 米ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院(SAIS)で修士号、ジョージ・ワシントン大学で博士号を取得。国防総省の研究機関、アジア太平洋安全保障研究センター(ホノルル)准教授、笹川平和財団米国研究員などを経て、2017年から現職。

台湾有事は差し迫っているか。

 台湾有事は「起きるかどうか」ではなく、「いつ起きるか」という問題だ。ただ、それがあと何年で起きるかを言うのは非常に困難だ。だからこそ、今のうちに考えるべきだという緊急性がある。

どのようなシナリオを想定するか。

 中国が軍事力による統一を決断したとすると、一つ目に想定されるのは、台湾軍を標的にした大規模なミサイル攻撃だ。二つ目は上陸作戦で、これはミサイル攻撃がどの程度成功するかによって、その規模も左右されるだろう。三つ目は、台湾海峡や台湾における航空優勢を獲得するために、空海軍力による航空作戦を行うことだ。これらがどのような順序になるかは、中国軍がどのような作戦を採用するかによる。

 大きな注目を集めていないが、先にサイバー攻撃や宇宙攻撃を行い、ネットワークや衛星を無力化し、他の軍事活動を容易にさせることも予測される。

中国が尖閣諸島の占拠を試みる可能性は。

 台湾侵攻に先立って尖閣諸島を攻撃するとは思えない。もしそうすれば、日本や米国をその領域の戦闘に積極的に関与させることになるからだ。中国が最も望まないことは、いざ台湾侵攻を行おうとする時に、米軍や自衛隊を中国周辺に招く理由を与えることだ。

 侵攻開始後なら十分にあり得る。中国が米国の戦力を台湾と日本の防衛に分散させ、日本を自国の防衛に専念させ、台湾に関与しないように図る可能性があるからだ。

中国が台湾に対して封鎖作戦を行う可能性は。

 台湾が島であることを考えると、完全な封鎖を行うことは非常に困難だ。台湾海峡に限って封鎖する場合、中国東岸に配備するミサイルの数を考えれば、成功する可能性がある。だが台湾全体を封鎖しようとすれば、中国はすべてを完全に遮断する圧倒的なプレゼンスを海空域で示す必要がある。他の国々が事態を傍観でもしない限り、成功するとは考えられない。

台湾に対する中国の影響工作はどの程度、深刻か。

 台湾における中国の影響工作は、すさまじいものがある。中国は継続的に台湾の社会や軍隊を標的にしており、非常に深刻だ。

 もし中国が平時に数年かけて徐々に偽情報を浸透させ、政府への信頼を失わせることなどができれば、それを紛争時に活用し、台湾社会の一部や軍隊を戦闘が始まる前に降伏させる可能性がある。

 例えば、台湾の最高峰である玉山の上空を中国の爆撃機が飛行したという写真がインターネット上に出回った。これは事実ではなかったが、写真を見た人々は中国軍が台湾の領空を飛行したと考えた。こうした工作は、知識のない人たちに、台湾は弱く、簡単に降伏すると思わせる可能性がある。

 軍事力は大事だが、戦う意志も重要だ。もし中国が情報工作を用い、台湾が自国を守る能力に人々が疑問を抱くことになれば、戦う前に勝利することもできるだろう。

 これは非常に大きなリスクがあり、だからこそ、台湾政府や市民社会がソフトウエアや教育活動を通して、これが偽情報やプロパガンダだと特定し、阻止しようとしている。

(聞き手=ワシントン・山崎洋介)


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