カバノー判事弾劾は敗北への道

アメリカ保守論壇 M・ティーセン

わいせつ行為疑惑が再燃
民主、上院選で議席喪失

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 カバノー最高裁判事に対する中傷が再燃しているが、これは民主党にとってやっかいな問題だ。誰もがそれを知っているが、大統領候補者らはそれに気づいていない。

 ニューヨーク・タイムズ紙が、カバノー氏の新たなわいせつ行為疑惑を報じた。疑惑は立証されていないが、候補者のほとんどは、カバノー氏の弾劾を要求している。民主党のウォーレン上院議員はツイッターに「これらの新たな疑惑は、憂慮すべきだ」と投稿、「カバノー氏を任命した人物と同様、弾劾すべきだ」と訴えた。ハリス上院議員(民主)も、「カバノー氏が最高裁で判事を務めることは、真実と正義の追求への侮辱だ。弾劾すべきだ」と主張した。無党派のサンダース上院議員、インディアナ州サウスベンドのブディジェッジ市長、オバマ政権で住宅都市開発長官だったジュリアン・カストロ氏、ベト・オルーク元下院議員も、この弾劾の呼び掛けに加わった。バイデン前副大統領も議会に、調査を開始し「証言に従って、どこにでも行くべきだ」と要求した。民主党候補としては比較的抑制した反応だ。

◇裏付ける証拠なし

 わいせつ行為を受けたとされる当の本人が友人に、覚えていないと言ったことなどお構いなしだ。前回のカバノー氏への疑惑では、民主党の望んだ通りには進まなかった。民主党の候補者らが、カバノー氏の弾劾を望むなら進めればいい。バイデン氏が求めた調査を始めればいい。弾劾公聴会を始めればいい。すべての国民が見られるよう、放映すればいい。

 有権者らに、カバノー氏の不名誉な承認手続きを思い出してもらおう。民主党がどのようにして、十代の少女に性的暴行を加え、大学のクラスメイトに下半身を露出し、高校のパーティーでの集団暴行に加わったとしてカバノー氏を非難したかを思い出してもらおう。裏付けとなる証拠は全くない。クリスタイン・ブレイジー・フォードさんの訴えを再現してみよう。しかし、フォードさんが今回、重要証人として指名したレランド・ケイサーさんは、フォードさんを信用していないと言っている。

 民主党がどのようにしてカバノー氏の推定無罪を否定し、性的略奪者でないことを証明する義務はカバノー氏にあると主張したかを国民に思い出してもらおう。

 民主党は前回、大失敗した。2018年、この大失敗で民主党は、上院で議席を失った。民主党のハイディ・ハイトカンプ、ジョー・ドネリー、クレア・マカースキル上院議員が、民主党によるカバノー氏に対する誹謗(ひぼう)中傷に嫌気が差した有権者らによって議席を失った。

 さらに、民主党は、テネシー州とテキサス州の共和党の議席を奪う機会を逃した。上院多数派共和党の院内総務ミッチ・マコネル氏が当時言っていたように、カバノー氏の公聴会は、共和党の基盤にとって「アドレナリン注射のようなもの」だった。今回また民主党は、2020年選挙に向けて、注射針を持ち出そうとしている。

 議会の民主党指導者らは、これが敗北への道であることを知っている。上院少数派民主党の院内幹事ディック・ダービン氏は、弾劾を主張する党の大統領候補らに真っ向から反論し、「現実に目を向ける」よう要求、「『弾劾がすべての問題を解決する』という考えから抜け出さなければならない」と訴えた。

 「民主党員は、トランプ大統領やその任命者が気に入らないと、すぐに弾劾と言い出すというのが、民主党員の間でお決まりの反応になっている。…これが民主党ということになってしまうと、民主党は、支持者にとって重要な問題を無視する党と思われる危険がある」。民主党のペロシ下院院内総務は、もっと露骨だ。下院はこの新たな訴えを調査するかと聞かれ、「しない」と断言した。

◇傷つくのは民主党

 ダービン、ペロシ両氏は、カバノー氏弾劾の脅しがトランプ氏にとって思わぬ恵みであることを知っている。

 これに先立って、民主党上院議員らが、他の最高裁判事に前例のない脅しを掛けていた。最高裁が銃問題で民主党が望む判断をせず、2020年の選挙で民主党が勝った場合、最高裁を「再編」し、リベラルな判事を送り込んで、5対4で保守派が多数派の最高裁をリベラル派が多数派にすると警告した。

 民主党は、このような脅しをしても、カバノー氏もトランプ氏も傷つくことはなく、傷つくのは民主党自身だということを分かっていないようだ。ワシントン・ポストによると、16年の調査では「トランプ氏に票を投じた有権者のうち26%が、投票の最も重要な要因は最高裁判事指名と回答、一方のクリントン氏の場合はわずか18%だった」。過去2回の選挙で見たように、最高裁が争点になると民主党は負ける。

 つまり、民主党は、20年の選挙で有権者らがカバノー氏のことやリベラル派が多数派の最高裁について考えるべきでないということだ。だから、弾劾手続きを始めればいい。

(9月20日)