NAFTA離脱の脅しやめよ
アメリカ保守論壇 M・ティーセン
トランプ氏、民主に圧力
大統領選に影響も
まただ。トランプ大統領はまた、民主党が新たな「米・メキシコ・カナダ協定(USMCA)」を承認しなければ、北米自由貿易協定(NAFTA)から離脱すると脅している。この脅しは、自由貿易を支持する共和党員にとっては懸念材料かもしれない。
しかし、トランプ氏の実績とすることなくNAFTAを葬り去りたい反NAFTAの民主党員らにとっては、悪いことばかりでもない。
◇存続は民主の責任
共和党のポートマン上院議員は、トランプ氏は民主党に、USMCAに反対し、NAFTAが存続すれば、それは民主党の責任だと言うべきだと主張するが、これはいい考えだ。ポートマン氏は、私が共同司会を務めるアメリカン・エンタープライズ政策研究所(AEI)のポッドキャスト「いったい何が起きているのか」でのインタビューで、「民主党員であっても、USMCAに反対票を投じれば、NAFTAを事実上、支持したことになる」はずだと指摘、USMCAが失敗すれば、「現状が維持される。つまりNAFTAだ」と述べた。
その上でポートマン氏は、民主党がUSMCAに反対する理由はないと主張する。その理由は「民主党にとってNAFTAよりもはるかにいい協定であり、…NAFTAの修正に関して民主党がこれまで要求してきたものそのもの」だからだ。
自動車産業を例にとると、米国は1994年にNAFTAを批准して以降、約35万人の雇用を失った。自動車産業の全雇用の3分の1だ。一方、メキシコはこの間に、自動車産業で数十万人の雇用を手に入れた。
USMCAによって、こうして失った雇用を米国に取り戻すことができる。
北米で生産される自動車の割合は62・5%から75%に増える。自動車の鉄とアルミの少なくとも70%は北米産とするよう求めている。また、自動車の40%から45%は、時給16ドル以上の労働者が生産するよう求めている。メキシコの賃金は低く、自動車生産の多くはメキシコから米国に移ることになるとポートマン氏の事務所は予測している。
ポートマン氏は「この協定の詳細を見てみよう。自動車産業でのメキシコでの最低賃金が盛り込まれている。これは、共和党らしいやり方ではないが、自動車産業の労働者にとってはいいことだ。…その元になっているのは、北米での生産を増やすべきだという考え方だ。…これは、民主党が長年要求してきたことだ」と述べた上で、民主党がこれに反対票を投じ、現行のNAFTAを支持する理由はないと断じた。
ポートマン氏によると、米政府機関の国際貿易委員会(ITC)は、USMCAによって米国の雇用が17万6000人増えると予測している。米通商代表部(USTR)は、USMCAによって米国の自動車部品230億ドルが新たに購入され、自動車産業で7万6000人の雇用が創出される。民主党が、これらの部品と雇用がメキシコのものになることを望むはずはない。
労働・環境基準についてはどうだろう。民主党が長らく優先課題としてきた分野だ。NAFTAにこれらは盛り込まれていない。労働と環境に関する項目は、後になって、クリントン大統領の「補足文書」として加えられた。しかし、協定に盛り込まれていないため、強制力はない。
USTRによると、USMCAには「環境に関して、米国のどの貿易協定よりも強く、発展的で、包括的な義務が盛り込まれており」、「NAFTAと違って、その環境条項は協定文の中に記載され、強制力がある」。
◇強制力ない協定
労働基準についてUSMCAは、団体協約で労働者の秘密投票を保証している。USTRによると、USMCAはさらに3カ国に「結社の自由、スト権など、国際労働機関(ILO)が承認した重要な労働基準を実行し、各国の労働法を効果的に執行する」よう求めている。民主党はこれらのすべてを捨てて、全く強制力のない労働・環境基準を持つ協定を支持するのだろうか。
トランプ氏は民主党に「ちょっと待て。これはどれも、民主党が欲しいと言っていたものだ」と言うべきだとポートマン氏は訴えている。民主党がUSMCAを阻止すれば、NAFTAは存続し、トランプ氏はそれを、大統領選で負けられないミシガン、ウィスコンシン、ペンシルベニア、オハイオなどの激戦州で民主党のせいにできる。労働者階級の有権者に、民主党は今後も自動車産業の雇用をメキシコに送り続ける道を選び、環境保護とスト権にも反対したと主張できる。
民主党はこれが分かっている。ポートマン氏が、USMCAは議会で承認されると考えているのはそのためだ。「理由は極めてシンプルだ。論理的に考えれば、そうなるしかない」。しかし、この論理が勝つには、トランプ氏がNAFTAを離脱すると脅すのをやめる必要がある。
(7月19日)






