バイデン「大統領」は幻想

アメリカ保守論壇 M・ティーセン

無視された労働者階級
オバマ政権で20万人の雇用喪失

マーク・ティーセン

 

 バイデン前副大統領は、討論会ではぱっとしないが、民主党の大統領候補指名争いでは依然、リードしている。これは民主党有権者が、バイデン氏なら大統領選で勝てると考えていることが一つの理由だ。ワシントン・ポスト-ABCニュースの世論調査では、有権者の45%が、トランプ大統領に勝てる可能性が最も高いのはバイデン氏だと考えている。他の候補はバイデン氏の足元にも及ばない。

 しかし、これらの有権者は間違っているかもしれない。

 民主党が大統領ポストを取り戻すためには、ペンシルベニア、ミシガン、ウィスコンシン、オハイオ州を取り戻す必要がある。これらの州では、かつて民主党を支持していた労働者階級が、2016年の選挙でトランプ氏を選んだ。バイデン陣営が勝てると考える根拠は、かつてバイデン氏とオバマ大統領に2度にわたって票を投じた「忘れられた米国人」を取り戻せるのはバイデン氏だと考えているからだ。だが実際には、全くの逆で、バイデン氏に勝ち目はないかもしれない。

◇腐敗した政治家

 この忘れられた米国人がトランプ氏に転向したのは、オバマ、バイデン両氏の在任中だった。その理由は、両氏が約束した希望も変化も得られなかったことだ。オバマ政権中、米国は製造業でほぼ20万人の雇用を失った。オバマ氏は、製造業の雇用は「戻ることはない」から、受け入れるしかないと言っていた。

 しかし、トランプ政権では戻っている。トランプ氏が就任して以降、製造業の雇用は50万人以上、増加した。高校を卒業していない国民の失業率は、過去最低を記録し、賃金は昨年、6%増加した。これは他のどのグループよりも高い。ミシガン州の失業率は、わずか4・2%、オハイオ州は4・1%、ペンシルベニア州は3・8%、ウィスコンシン州に至ってはわずか2・8%だ。米国が抱える経済の最大の問題は、働きたい人よりも求人の方が160万人多いことだ。トランプ政権下でこれほどうまくいっているのに、どうして方向転換する必要があるだろうか。

 これらの有権者は、共和、民主両党の政治エスタブリッシュメントに無視され、軽んじられてきたことにうんざりしており、トランプ氏に投票する。バイデン氏は、これらの有権者が投票で権力から排除したエスタブリッシュメントそのものだ。バイデン氏は1973年に中央政界に進出し、以後ずっとワシントンにいる。反エスタブリッシュメントの有権者が最も支持したくないタイプの人物だろう。

 トランプ氏は、バイデン氏はワシントンという沼地の主のようであり、その権力と影響力を生かして一族に富をもたらしてきた腐敗した政治家だと主張するだろう。攻撃材料はたくさんある。バイデン氏の息子ハンター氏の国際ビジネス取引は、米国と関係のある国の政府とのバイデン氏の外交と奇妙な一致がみられる。ハンター氏と中国銀行との間で10億ドルの契約が交わされたのは、バイデン氏がエアフォースツーにハンター氏を乗せて北京を訪れて2週間足らずだった。まだある。ハンター氏はウクライナのエネルギー企業の取締役に名を連ね、月に5万ドルを受け取っていた。その企業を所有していたオリガルヒ(新興財閥)を捜索していた検察のトップが解任されたが、バイデン氏は、これは偶然だと主張している。疑惑には事欠かない。

◇左傾化する民主

 忘れられた米国人がこれらをよく思うことはない。トランプ氏はバイデン氏を、ワシントン・インサイダーであり、自身の家族を豊かにする一方で、破滅的なあらゆる貿易合意を支持して、米国の製造業の雇用を破壊してきたと非難するだろう。

 トランプ氏は労働者階級の有権者に、バイデン氏が生計を立てる手段を奪った一方で、バイデン氏の家族は豊かになったが、その仕事を取り戻したのは私だと訴えるだろう。

 バイデン氏が選ばれる可能性があると思える要因が一つある。バイデン氏以外の民主党員らが、左に大きく傾斜していることだ。目が不自由な人々の国では、片方の目が見える人は王様だ。

 ほかの有力候補のほとんどが、社会主義と国境の開放を支持すれば、バイデン氏が党の指名を勝ち取る可能性はある。しかし、バイデン氏なら本選で勝てるというのは、幻想だ。

(7月12日)