左翼の間で反ユダヤ増加

アメリカ保守論壇 M・ティーセン

発言に責任持たぬ政治家
凄惨な銃撃事件も

マーク・ティーセン

 

 米国務省は最近、反ユダヤ主義の定義を改め、「現代イスラエル政治をナチスのそれと比較すること」も含めることとした。「不買、資本引き揚げ、制裁(BDS)」運動が強まり、BDS支持者らがよく、同様の比較を行っていることを受けた措置のようだ。正しい対応だ。

 ほんの数日前、アウシュビッツ収容所の旧親衛隊本部で、アウシュビッツ・ビルケナウ博物館のピオトル・シウィンスキ館長に会った。

 無数の命が失われたガス室と遺体焼却炉を見渡す窓の側で話をする中でシウィンスキ氏は、イスラエル嫌いとユダヤ嫌いの間に違いはないと訴えた。

 「言葉は違うが、昔と変わってはいない。反イスラエル・イデオロギーを擁護する人と話していると、最初は分からないかもしれないが、すぐに、世界の悪いものはすべてユダヤ人のせいだと非難してきた昔の話と同じであることが分かるはずだ。私にはよく分かる。反ユダヤでない反イスラエルは聞いたことがない」

◇犠牲者への侮辱

 インタビューの中で、アメリカン・エンタープライズ政策研究所(AEI)の私の同僚ダニエル・プレトカ氏と私は、民主党のイルハン・オマル、ラシダ・タリーブ両下院議員のような政治家についてどう思うかと質問した。二人は最近、イスラエルをボイコットするのはナチス・ドイツをボイコットするのと変わらないと発言したばかりだ。

 シウィンスキ氏は、「どうして、イスラエルとナチスを比較したがるのかは私には分からない。あまりまじめに考えてコメントする気にはならない。ただの中傷だ。犠牲者への侮辱であり、生存者への侮辱であり、国家全体、社会全体への侮辱だ」と述べた。その上で、かつては「誰かがこのようなことを言えば、政治生命は終わった。今は、問題視されても2日程度だ。恐ろしいことだ。言葉に対して責任を持たないということだからだ」と語った。

 BDSに関しては「どうして、この国だけにここまで執着し続ける政治家がいるのかが分からない。国連で、イスラエルに関してどれだけたくさんの決議が出され、そのほかの国、たとえばスーダンに関してどれだけの決議が出されているだろうか」と述べた。

 反ユダヤの問題は、世界中で起きている。最新のCNNの調査では、欧州の人々の4分の1以上が、ユダヤ人はビジネス、金融で影響力を持ち過ぎと答え、5人に1人は、ユダヤ人はメディアと政治で影響力を持ち過ぎだと答えている。反ユダヤ事件も増加している。米国では、ネオナチがシャーロッツビルで「ユダヤに居場所はない」と気勢を上げ、サンディエゴ近くのシナゴーグで4月、凄惨な銃撃事件が起きた。昨年もピッツバーグで同様の事件が起きた。フランスでは18年に反ユダヤ事件が74%、ドイツでは60%増加したと報じられた。

◇差別と闘う義務

 極右ポピュリズムが台頭する一方で、反ユダヤ事件の被害者らの多くは、右派による反ユダヤ事件はごく一部だと指摘する。欧州連合(EU)基本的人権局は昨年12月、欧州のユダヤ人に、これまで経験した最も深刻な反ユダヤ攻撃を行ったのはどのような人々かと質問、13%が極右の政治的考え方を持つ人物、30%が「過激派イスラム教徒」、20%が左翼思想を持つ人物と答えた。

 反ユダヤ思想が左翼の間で増加しているということだ。英国で今年に入って、労働党の議員3人が、党とコービン党首を「組織的反ユダヤ主義」(元労働党幹事長)と非難し、離党した。ワシントンでは、民主党議員らが、党内の反ユダヤ主義を抑え込もうと奮闘している。シウィンスキ氏は、左翼の反ユダヤ主義の高まりは驚きではないと指摘。「ドイツのナチ党は労働者の党だった。よくナチスは極右だと思われてきた。ナチスは、左翼の言葉を使って、左翼にも取り入ろうとしていた」と指摘した。

 左翼であれ、右翼であれ、反ユダヤ主義など人種差別や外国人嫌悪と戦うべき義務は誰にもある。シウィンスキ氏に、反ユダヤ主義的考え方を持つ政治家はここに来るべきかと問うと、誰もが来るべきだと答え、「皆、アウシュビッツに来るべきだ。犠牲者のために泣くだけでなく、各自が負うべき責任についても考えるべきではないか」と述べた。

(8月14日、ポーランド・オシフィエンチム)