教育に船舶と漁港取り入れを
エルドリッヂ研究所代表・政治学博士 ロバート・D・エルドリッヂ
海洋大国・日本を認識へ
中高生向け新規プログラムに
日本は島嶼(とうしょ)国家で、南北の広大な海域に6850以上の島々がある。陸地面積は狭く、国土面積は世界で61位だ。ところが、排他的経済水域を含めると、日本の面積は447万9674平方㌔で、世界6位の広さを誇る。島嶼国家であることは、国家が海に依存していることを意味する。強い近代産業と経済は世界3位、人口は同11位、海軍力は世界4位、海上保安庁はアジア太平洋地域で1位であることは、海洋の大国であることも意味する。
海離れが人手不足助長
それにもかかわらず、漁師や海運、海上保安庁、海上自衛隊など、海に関連する仕事に従事する日本人は減り続けている。漁業や海運業では深刻な労働者不足を補うためにインドネシアやフィリピン、ベトナムから労働力を補っている。しかし、国防や警察分野、すなわち海上自衛隊と海上保安庁となると、そうもいかない。(詳細は、拙著『人口減少と自衛隊』扶桑社、2019年を参照。)
これは単に労働力が不足しているだけでなく、全般的に漁業や海運業界で働く意思がないことの表れだ。さらには日本人の海離れ、言い換えれば、日常生活やレクリエーション活動で海と接していないことからきていると思われる。
後者の問題では、日本人は東京に代表される大都市を求めて、田舎や沿岸地域、漁業コミュニティーから離れている。地方から都市への人口移動は、地方の自治体の深刻な人口減少をもたらしており、漁業、造船およびメンテナンス、その他の港湾社会に影響を及ぼしている。
人々の海離れの別の原因は、以前と比べてレジャー活動の種類が増えたことにある。日本生産性本部の調査によると、海遊びを楽しむ日本人は1985年をピークに、5人に1人まで減少した。
海離れは観光に依存するビーチや沿岸の自治体に影響を及ぼす。観光関連の産業に従事する人の数は減少をたどり、経営者は仕事を探して別の場所に行く結果になる。
海離れがもたらすもう一つの影響は、漁業やその他海洋産業を職業の選択肢に含めなくなってしまうことだ。労働人口全体も減少しているだけではなく、その分野での仕事を選ぶ人も減少している。実際、海洋産業に就かない理由の一つは魅力不足である。海洋産業全体についての知識の欠如も関係している。例えば「船の仕事」を聞くと、ほとんどの人は「釣り船」で働くと思い込んでいるそうだ。
最後の問題である船関係の業界についての知識不足を解消し、若者をよりアウトドアに行ってもらい、コミュニケーション能力を習得させ、実用的な労働知識を身に付けさせ、日本は海洋大国であることを若者に認識させるために、中学生(あるいは高校生)向けの新規教育プログラムを提案したい。このプログラムは国内の地方の漁協を活性化し、地方の港湾コミュニティーに利益をもたらす。これらの地域は、企業や組織の後継者不足問題にも光を当てて、助けになると期待している。
こうした理由から、国内にある2823の漁港、少なくともこれに参画したい団体や組織は、文部科学省と総務省と組んで、生徒が漁港地域で1週間暮らし、船舶で働く機会を作るよう提案したい。新規プログラムでもいいし、実際に学校教育で行われている社会体験の一環でもよい。
海洋産業の生活を共有
具体的には、生徒は週の半ば頃に現地入りし、週をまたいで滞在してもらう。朝早く起きて、地域の漁師や漁港職員、船舶修理、海運産業の生活を共有する。地域の平日と週末の違いも味わってもらう。さらに、このプログラムは若い世代の人々がその産業について正確に理解する機会となり、将来の職業として漁業、海運、海上の安全保障関係の仕事を選ぶ手助けになる。
文部科学省は最近、リーダー育成を教育に取り入れた。リーダーシップを学ぶには、自然の中で体力的、感情的かつ知的に取り組むこと以外に良い方法はない。同省にはカリキュラム見直しの際に私が提示する海洋プログラムを考慮してほしい。なお、総務省には、地域社会に活力を与える方策としてこの海洋プログラムを取り入れるよう強く求めたい。
今日は海の日だ。「海の恩恵に感謝すると同時に、海洋国家日本の繁栄を願う」という趣旨で1996年に制定された。今始めなくていつやるのか。






