イラン攻撃中止は正しい判断
アメリカ保守論壇 M・ティーセン
効果上げる経済制裁
NATO同盟国は結束を
トランプ大統領が、米軍の無人機が撃墜されたことに対するイランへの武力行使を中止したことについて、この決定を、シリアが「レッドライン(越えてはならない一線)」を越えたにもかかわらず、オバマ前大統領が攻撃しなかったことと同列に扱う例が見られた。残念ながら、両者は全く違う。トランプ氏は自制したという点で正しく、イラン政策は効果を上げている。
シリア政府は、民間人に化学兵器を使用すれば武力行使をするとオバマ氏から警告を受けていたが、イラン政府は、トランプ政権が引いたレッドラインを越えていない。
ワシントン・ポスト紙は、ポンペオ国務長官が5月に非公式の場で、「イランかその代理組織による攻撃で、米兵が1人でも死亡すれば、軍事力による反撃を行う」と警告したと報じた。また、公的な場で、そのような攻撃は「イランの中で起きる可能性が高い」と述べた上で、オバマ氏はシリアを攻撃しなかったが、トランプ氏はした、トランプ氏なら躊躇(ちゅうちょ)しないと主張。「見ての通り、アサドが化学兵器を使った時、トランプ氏は強い行動を取った」と述べた。
◇原油輸出が激減
イランの指導者らは、たしかに見ていた。トランプ氏のレッドラインを越えなかったのは偶然ではない。
日本とノルウェーのタンカーを攻撃したが、米国のタンカーは攻撃していない。米軍の無人機を撃墜したが、同じ空域を飛行していたと伝えられている有人の対潜哨戒機P8は攻撃しなかった。トランプ氏はこれを「非常に賢明な判断」と述べた。
トランプ氏には、イランのこのような戦争行為に対し反撃する権利がある。しかし、シリアで2度したように、武力を行使する用意があることを証明する必要などないことも知っている。
イランの指導者らが米国を非難するのは、トランプ氏が科している前例のない制裁に耐えられなくなっているからであることも知っている。イランの原油輸出量は、2018年4月の日量250万バレルから、6月の30万バレルまで、88%減少した。
国務省の見積もりでは、原油禁輸だけで、歳入は500憶ドル減少する。これはイランの年間予算の40%に相当する。トランプ氏の「最大限の圧力」によって、イラン経済は縮小し、インフレ率は急上昇し、代理テロ組織ヒズボラとハマス、国軍、革命防衛隊(IRGC)への資金を削減せざるを得なくなった。
イランが目指しているのは、これらの圧力を取り除くことだ。そのためトランプ氏は、軍事的にではなく経済で反撃。追加制裁として24日、IRGCの複数の幹部、ザリフ外相、最高指導者ハメネイ師への制裁を発表した。ムニューシン財務長官によると、この制裁で「イランの資産何十億ドルが凍結される」。この方が、限定的な軍事攻撃よりも、イランが受ける打撃ははるかに大きい。
これによって、米国と同盟国を分断しようというイランの目論見も後退する。イラン政府は、トランプ氏が制裁を科し、オバマ氏の核合意から離脱したことで事態はエスカレートし、同盟国が米国に背を向けなければ、事態はさらに悪化するというメッセージを送ろうとしている。しかし、イランの行動は、トランプ氏の抑制した対応とともに、逆の効果を及ぼすことになる。制裁は強化され、同盟国の結束は強まる。
◇原因はイランに
トランプ氏は、この餌に飛び付かず、情勢悪化の原因はすべてイランにあることを示した。渋る同盟国に、露骨な国際法違反を犯したイランを罰するべきだということができる。軍事と経済、どちらがいいかと聞くことができる。いずれにしても、この事件をてこに、同盟国に対して、各国で独自に厳しい制裁を科すよう要求すべきだ。
イランは、北大西洋条約機構(NATO)加盟国に理不尽な攻撃を仕掛けたことになる。米国の同盟国がトランプ氏に、NATO憲章第5条の重要性を訴えたのはつい最近のことだ。5条では、1加盟国への攻撃は、全体への攻撃だとうたっている。この約束はどこに行ったのか。
イランを経済的に締め上げる一方で、軍事オプションもテーブルの上にある。攻撃を命じる寸前だったことはイランにとって警告となるはずだ。
トランプ氏は24日、「これまで自制してきたが、それが今後も続くとは限らない」と述べた。メッセージは明確だ。1枚目のフリーパスは手に入れたが、2枚目はないかもしれない。
(6月26日)











