アサンジ被告の起訴は当然
アメリカ保守論壇 M・ティーセン
甚大なウィキリークス被害
米国に対するスパイ行為
ポンペオ米国務長官はウィキリークスを「敵対的非国家情報機関」と呼んだ。諜報活動取締法に基づいて新たに18件の罪状で起訴された創始者ジュリアン・アサンジ被告もこれを認めているようだ。司法省は起訴状の中で、アサンジ被告が元陸軍情報分析官のチェルシー・マニング氏に、ウィキリークスは最初から国民のための「情報機関」だったと説明していたと記されている。
この敵対的情報機関のリーダーがようやく、米国の極秘情報を盗み出した罪で連邦刑務所に175年間、服役する可能性が出てきた。
アサンジ被告による被害は計り知れない。2010年に「水爆」を爆発させたと主張し、国務省の外交公電25万件以上を公表した。起訴状によると、これらの公電には「米政府に情報を提供し、身分を伏せるべき合理的な理由があると考えられる世界中の人物の名前」が記載され、「これらの情報源には、抑圧的な政権下で生活し、政権からの弾圧や国内の政治状況を自らの命の危険を冒して米国に報告してきたジャーナリスト、宗教指導者、人権活動家、反体制活動家らがいる」
◇9万件の報告を公開
起訴状は、ウィキリークスが暴露した中国、イラン、イラク、シリア内の情報源の個々の例に触れている。さらに、アサンジ被告が、アフガニスタン戦争関連の活動に関する9万件の報告書を公開したことで、タリバンに関する情報を提供していた少なくとも100人のアフガン人の身分も暴露された。
起訴状は、ニューヨーク・タイムズ紙のタリバン指導者とのインタビュー記事を引用している。そこでこの指導者はこう述べている。「報告書を精査している。スパイ、米国と協力している人物であることが分かった。ここに挙げられた人物が本当に、米国に協力していたのかどうかを秘密機関を通じて調査する。本当に米国のスパイだった場合、罰を受けることになる」
アサンジ被告が盗み出した極秘文書を見ているのはタリバンばかりではなかった。パキスタンのアボタバードにあったアルカイダ指導者ウサマ・ビンラディンの隠れ家でも見つかっている。ビンラディンは米軍の急襲を受け死亡したが、その際に「ビンラディンから、テロ組織アルカイダの別のメンバーへ宛てた1通の書簡」が見つかっている。書簡には「ビンラディンが、ウィキリークスに掲載された国防総省の資料を収集するよう要求した」と記されていた。アサンジ被告が公表した米政府の極秘資料をビンラディンに提供したアルカイダ・メンバーからの返信も、急襲の際に見つかった。
実際に、アサンジ被告の暴露によって、ビンラディン急襲作戦が失敗する可能性もあった。急襲の1週間前に暴露された「グアンタナモ・ファイル」には、中央情報局(CIA)が迫っていることをビンラディンに知られる可能性のある情報が含まれていた。その文書の中の一つ、捕獲されたアルカイダの作戦指揮官ファラジ・リビのファイルからは、ファラジが「アルカイダの密使の選び方、採用の仕方、よく使用する通信手段」について明らかにしたことが分かる。ファラジは、「UBL(ビンラディン)が指定した密使からの書簡を受け取り」、その密使は「パキスタン内でのUBLとその他のメンバーとの間の正式なメッセンジャー」だったこと、「2003年半ばに(ファラジが)家族をアボタバードに移し、アボタバードとペシャワルの間で働いていた」ことも記されている。CIAは、密使を追跡することでアボタバードのビンラディンにたどり着いた。これは、ファラジの情報のおかげだ。ビンラディンが、ファラジがCIAに話したことを詳述した文書を読んでいれば、米国が密使とアボタバードの隠れ家の関連を把握していることが知られていた可能性があった。幸運なことに、米特殊部隊は、ビンラディンがそこまで状況を把握する前に急襲した。
アサンジ被告が及ぼした被害のうち、起訴状で触れられているのは一部だ。CIAの工作員が空港を通って移動する際に身分を隠す方法を示した極秘文書を14年に公表したこと、リビア沿岸のテロリストがはびこる地域から欧州に向かう難民船を捕獲する欧州連合(EU)の軍事作戦の詳細を記した文書を16年に公表したこと、国家安全保障局(NSA)による外国政府の通信の傍受を説明した極秘文書を16年に公表したことなどは記載されていない。
◇敵対勢力に情報提供
アサンジ被告の起訴が、極秘情報を公表した調査ジャーナリスト追及の前例になるのではないかという懸念が一部にある。しかし、10年にも書いたことだが、「信頼できる報道機関」と違い、「アサンジは、ウィキリークスが公表する予定で、安全保障機関が公表に異議を唱える可能性のある極秘情報を検証する機会を米政府に与えなかった」。したがって、責任感のあるジャーナリストが恐れる必要はない。
いずれにしても、アサンジ被告はジャーナリストではない。スパイだ。盗み出した情報をアルカイダ、タリバン、中国、イランなどの敵対勢力に提供したのはサイトを通じてであり、スパイのような秘密の情報受け渡し場所ではなかったことは確かだが、そんなことは重要ではない。
アサンジ被告のしたことは、米国に対するスパイ行為だ。自身が引き起こした被害を悔いてもいない。
アサンジ被告はかつて、情報の暴露で傷付いた無実の人々のことを「二次被害」と言い、ウィキリークスが「手を血で染めた」可能性を認めた。申し訳ないが、アサンジ被告に、米国の敵を扇動し、無数の人々の命を危険にさらし、憲法修正第1条の表現の自由を主張する資格はない。司法省が起訴するのは当然だ。
(5月29日)






