原子力推進艦艇装備の勧め

元統幕議長 杉山 蕃

攻撃型原潜増強する中国
通常型潜水艦では対応困難

杉山 蕃

元統幕議長 杉山 蕃

 先日、陸上自衛隊が装備する対艦ミサイル(12式地対艦誘導弾)の射程延伸が計画されている旨報道された(産経)。本件は、数度にわたって筆者が主張してきたところであり、誠に結構なことと考えている。空母を筆頭とする中国海軍の急激な膨張、尖閣への執拗(しつよう)な挑発行動、我が国全周にわたる洋上行動等、海洋支配の意図は顕著であり、対艦ミサイルの充実は対応策として不可欠の施策と考えているからである。

 今回はもう一つの懸案である原子力潜水艦への対応について考えてみたい。中国の潜水艦建造は急ピッチで、近い将来、周辺のみならず、西太平洋を「不安定な海」にする恐れ大であり、しかるべき対応が必要とされる。潜水艦を論ずる際、基本的知識について、確認しておきたい。それは原子力潜水艦と通常型潜水艦の顕著な差異である。

もはや違う種類の兵器

 原子力艦は水中速度30ノットといわれ、高速で作戦行動を行う。通常型の潜水艦は、性能諸元には20ノット程度の数値が挙げられているが、実情は5ノットから10ノット程度が限度で、20ノットも出せば、短時間で蓄電量が無くなり航行不能となる。また、潜航可能時間については、原潜は数カ月以上ほとんど制限がないのに対し、通常型は数日が限度で、シュノーケル深度まで浮上し電池の充電を行わねばならない。

 艦のサイズについても、原子力艦はサイズに応じた出力を持つ原子炉を持てばよく、大型の船体が多い。通常型は電池容量との関係から小型艦にならざるを得ず、搭載武器にも制限が大きい。このような状態から両者の間には顕著な性能上の差異があり、水中で行動するという共通点はあるものの、違う種類の兵器であるということもできる。

 米海軍においては、既に全ての潜水艦(約90隻)が原子力艦であり、露中英仏の潜水艦も5000㌧以上の大型艦は全て原子力艦である。比して通常型は、我が国の「そうりゅう」型を筆頭に3000㌧クラスが限度であり、原子力艦が垂直発射(VLS)のミサイルを主体とするのに対し、通常型は水平方向発射の魚雷管が主体である。「そうりゅう」型の最新艦「おうりゅう」は昨年10月進水、世界に先駆けてリチウム電池搭載の技術を適用、大幅に電池能力を前進させたが、所詮(しょせん)は原子力艦と比較できるレベルに無い。

 中国の潜水艦建造構想は、基本的に三つの方向を持っている。一つは核弾道弾(SLBM)を搭載し核戦略の一角を担う弾道弾原潜(SSBN)であり「晋」級(8000㌧、VLS12基)が該当する。4隻48基の核弾道弾であるが、新型の「唐」級の建造が始まっていると報ぜられ、核弾道弾は1隻当たり24基と倍増するようである。

 もう一つの方向は、攻撃型原潜(SSN)といわれるカテゴリーで巡航ミサイル用VLS、魚雷発射管を有し、水中から艦艇および陸上目標を遠距離から攻撃する能力を持つ。代表艦種は「商」級SSN(8000㌧)で、既に実用が始まっており、6隻以上の建造計画が進行していると見られている。特に中国が目指す、空母打撃群の外洋進出には不可欠であり一層の増勢が見込まれる。

 三つ目のカテゴリーが通常推進型潜水艦で、その隠密性を利用して、沿岸哨戒、水峡・水道の通峡阻止等の戦術運用に用いられる。平成30年防衛白書では中国潜水艦の拡張に触れ、近代的潜水艦47隻と分析し、さらなる増勢に懸念を表明している。特に「商」級攻撃型原潜の増強は、我が国には対応手段が困難な分野であり、早急に対応を検討しなければならない。

情勢変化に鑑み論議を

 このように潜水艦技術は急速に拡散しつつあり、原子力推進艦は巡航ミサイル技術、誘導魚雷技術等と相まって、通常戦力の分野でも、極めて重要な役割を持つに至っている。我が国としても、周辺国装備の趨勢(すうせい)から、空白と言える原子力推進の潜水艦装備に向け、真剣に取り組む時期に来ていると判断する。国民的核アレルギーの強烈さ、原潜保有への否定的政治姿勢、福島原発事故等、過去の経緯は十分承知の上、変化する周辺軍事情勢に鑑み、深刻な論議を期待するものである。

(すぎやま・しげる)