オバマ氏の間違い繰り返すな

アメリカ保守論壇 M・ティーセン

トランプ氏、シリア撤収表明
IS復活、地域紛争勃発も

マーク・ティーセン

 同時多発テロの黒幕ハリド・シェイク・ムハンマドは米中央情報局(CIA)に拘束されていた時、捜査官に予言めいたことを言っていた。「(米国は戦場で、つかの間の勝利を手にするかもしれないが、最終的には)われわれが勝つ。軍事的に米国を負かす必要はわれわれにはないことを米国は理解していないからだ。米国が、戦いをやめることで自滅するまで時間をかけて戦えばいいだけだ」

 トランプ大統領は、シリアからの米軍撤収の準備をしながら、ムハンマドのこの言葉についてよく考えてみるべきだ。ムハンマドは、米軍撤収を聞いて笑みを浮かべているはずだ。

 トランプ氏は、拙速な撤収をすればどうなるかを知っている。オバマ政権が2011年にイラクで「この巨大な空白をつくり出した」と主張した。その通りだ。その上で「イラクに行くべきでなかったが、行ってしまったのだから、あのような出方はすべきでなかった」と主張した。大統領に就任するとトランプ氏は、オバマ前大統領の制約の多い交戦規定を見直し、米軍に裁量を与え、「イスラム国」(IS)を支配地から駆逐させた。この点に関していえば、大変な実績だ。

◇世界各地に組織拡大

 しかし、ISが支配地を失ったことは、敗北したことを意味しない。ISは11年にイラクに支配地を持っていなかった。ところが、オバマ氏のおかげで、急速に成長し、英国に匹敵する規模の支配地を持つカリフ体制を確立した。復活しただけでなく、テロ組織のネットワークの触手を世界中に伸ばし、29カ国に細胞組織をつくり、143回のテロを起こし、2043人を殺害し、数千人を負傷させた。オバマ氏が犯したとんでもない間違いの影響はいまだ消えていない。イタリア・バリで12月13日、ウマル・モシン・イブラヒムという名のソマリア人が逮捕された。ISのメンバーとみられ、クリスマスにローマのサン・ピエトロ大聖堂を爆破すると言っていた。

 現在のISは、オバマ氏が米軍をイラクから撤収させた11年よりもはるかに強大になっている。国防総省の見積もりでは、イラクとシリアに約3万人の戦闘員を持ち、母体であるアルカイダの勢力がピークだった06年から07年よりも「有能」だ。米軍のイラク撤収時、戦闘員がわずか700人だったのとは対照的だ。シンクタンク戦争研究所によると、ISは「イラクから4億㌦もの資金を違法に運び出し、中東内での合法的な事業に投資した」。トランプ氏によって支配地を失った結果、ISは元のテロ組織に戻った。依然として危険であり、資金力があり、世界各地に拠点を持つ。

 シリアから米軍が撤収すれば、ISへの圧力が失われるだけでなく、空白が生まれ、そこに、世界で最も悪辣な組織が入り込むことになる。アルカイダは、米国がライバルのISを弱体化させるのを見ながら、復活の時をうかがっている。そのアルカイダも、安全な隠れ家を手に入れることになる。

◇イスラエルの脅威に

 イランと配下のテロ組織ヒズボラは、シリア南西部に活動拠点を設け、イスラエルの脅威になる。ネタニヤフ首相は、これを黙って見ていることはせず、必要ならイランに直接報復すると断言した。米軍撤収で、破滅的な地域的戦争が発生するということだ。

 トルコは今後、ISと戦うために米国が集め、訓練を施したクルド人戦闘員らを追い払う。オバマ氏の場合、イラク撤収後も治安部隊がISとの戦いを続けたと主張することが可能だ。だが、シリア撤収後、トルコがクルド人戦闘員らを排除すれば、ISと戦う勢力は現場にいなくなってしまう。

 シリアのアサド政権はいずれ、自国民への大虐殺を開始する。シリアでのオバマ氏の失敗のせいで難民危機が発生したと非難してきたのだから、トランプ氏がオバマ氏の失敗を繰り返せば、シリア難民が欧州に殺到することも考えられるはずだ。

 トランプ氏が、オバマ氏がISに勝利したと宣言し、米軍を撤収させたことを非難したのは正しかった。なのになぜ今、全く同じことをしようとしているのか。この決定で喜ぶのは誰なのかを自身に問うべきだ。その答えは、イラン、ロシア、アサド政権、ヒズボラ、ISとグアンタナモ収容所にいるハリド・シェイク・ムハンマドだ。

 敵が喜ぶのなら、その判断は間違いだ。まだ、修正はできる。

(12月21日)