一貫性欠くトランプ氏批判
アメリカ保守論壇 M・ティーセン
偽善的なリベラル派
国境への米兵派遣に反発
大統領が、南部国境の安全を守るために米軍を派遣すると発表した時、議会からは超党派で称賛された。ワシントン・ポスト紙は、国境への軍の派遣を「スマート・ポリティクス」と呼んだ。2011年のことだ。当時の大統領はバラク・オバマ氏。オバマ氏が「ファランクス作戦」の一環として国境に送った州兵は、約1万8000人の不法移民を拘束し、25㌧以上の違法薬物を差し押さえた。
南部国境に兵士を派遣した大統領はオバマ氏だけではない。06年にはブッシュ大統領(子)が「ジャンプスタート作戦」を開始、州兵が、17万6000人の移民の拘束と、約9億㌦の違法薬物の差し押さえを支援した。さらに1994年にはクリントン大統領が「ゲートキーパー作戦」を開始し、サンディエゴ・ティフアナ国境の「管理」の復活を支援した。さらに89年には、ブッシュ大統領(父)が「ジョイント・タスク・フォース6」を設置し、南部国境地域に米兵を派遣した。
しかし今、トランプ大統領が共和、民主両党の4人の歴代大統領がしてきたのと同じこと、つまり南部国境の安全の確保のために兵士を派遣すると発表すると、リベラル派の抗議マシンが始動し、108人の民主党下院議員らがマティス国防長官に書簡を送り、「この行動は南部国境の軍事化であり、政治的得点を獲得し、移民に関して国民の間に間違った恐怖心をかき立てるためのものだ」と訴えた。
おかしな話だ。オバマ氏、クリントン氏、ブッシュ親子の時はそうは言わなかった。
トランプ氏を批判する人々は、この点を指摘されると「だから何」と言うだけだ。残念なことだ。これがひどい偽善でないというのなら、「だから何」などと言う必要もないだろう。
◇クリントン氏を擁護
この流れで行くと、トランプ氏が、リベラル派の献金者で富豪のジョージ・ソロス氏(たまたまユダヤ人だった)を批判すると、反トランプ派は、トランプ氏は反ユダヤだと主張する一方で、民主党が共和党の献金者シェルドン・アデルソン氏(この場合もたまたまユダヤ人だった)を攻撃したことに反トランプ派が何の問題もないと主張しても、全く問題はないということになる。バーニー・サンダース上院議員は、「選挙をカネで買うシェルドン・アデルソン氏のような富豪」を非難し、エリザベス・ウォーレン上院議員は、「シェルドン・アデルソン氏は民主党をカネで丸め込むことはできない」と断言した。この2人は反ユダヤなのだろうか。オバマ氏とハリー・リード民主党上院院内総務が、保守派献金者の富豪コーク兄弟を非難した時はどうだっただろうか。リード氏は兄弟のことを「得体が知れない」と言い、その政治献金を「非アメリカ的」と呼んだ。トランプ氏がソロス氏についてそう言ったらどうなるだろうか。なぜ、ソロス氏はユダヤ人だから批判を受けるべきでなく、コーク兄弟はユダヤ人でないから標的にされていいのか。
公正を期すために指摘しておきたいことがある。こういった批判は、数カ月前、クリントン元大統領が「ネーション・オブ・イスラム」のリーダー、ルイス・ファラカン師と共にステージに登場した時は起こらなかった。ファラカン師は、「ヒトラーは偉大な人物」と断言し、ユダヤ人に「忘れるな。神はおまえたちを火に投げ入れる。火は永遠に燃え続ける」と警告し、最近ではユダヤ人を「シロアリ」に例えた。クリントン氏はソウル歌手アレサ・フランクリン氏の葬儀に参席しただけで、参席者を選べる立場にはないと、クリントン氏を擁護する声もある。トランプ氏が葬儀で、白人至上主義団体クー・クラックス・クランの元最高幹部、デービッド・デューク氏と同じステージに立ったとしたら、同じような反応があるだろうか。オバマ氏が、ファラカン師と笑顔で写真撮影し、「私よりずっとかっこいい」と冗談を言ったと報じられた時、非難されただろうか。
◇高いモラル基準を
民主党が「女性たちの行進」に参加し、支援することに問題はない。行進を率いたのが、米国のイスラム教徒はイスラエル人を「人間的に扱う」べきでないと訴えたリンダ・サーソア氏であっても、ファラカン師を「GOAT(史上最も偉大)」と呼んだタミカ・マロリー氏であってもだ。だが、トランプ氏を反ユダヤと非難するのは行き過ぎだ。
リベラル派の偽善はまだまだあるが、それを挙げ連ねても、トランプ氏への批判への答えにはならない。国境に兵士を送ることが正しいことかどうかを議論することは可能だ。民主党が、上層部の反ユダヤ主義を大目に見ているからといって、トランプ氏が偏狭な右派「オルトライト」を非難しなくていいということにはならない。
しかし、トランプ氏への批判が真剣に受け止められることを望むなら、主張に一貫性を持たせるべきであり、トランプ氏に要求しているのと同程度の高いモラルの基準を自らにも課すべきだ。でなければ、米国民は、人種差別や反ユダヤという非難を、政敵を黙らせるための武器として使っているだけだという印象を持つのではないだろうか。
(11月7日)






