「オバマ系判事」は存在する
アメリカ保守論壇 M・ティーセン
最高裁長官の主張は間違い
司法の独立を損ねる
裁判官が政治的に独立しているということを示そうとして、固い信念を持つ大統領と政治的論争に挑むというのもおかしな話だ。
トランプ大統領が、自身の決定を否定する判断を下した判事を「オバマ系判事」と呼んだことを受けて、連邦最高裁のロバーツ長官は、トランプ氏への異例の反論の声明を発表、「判事にオバマ系も、トランプ系も、ブッシュ系も、クリントン系もない」と訴えた。ロバーツ氏がこのような発言をすること自体、間違いであるばかりか、オバマ系判事、トランプ系判事は存在しないという主張も間違っている。
オバマ系、トランプ系がないのなら、共和党はなぜ上院で、オバマ氏が政権最後の年に故アントニン・スカリア判事の後任にメリック・ガーランド氏を指名するのを阻止したのか。民主党はなぜ、スカリア判事の後任にトランプ氏が指名したニール・ゴーサッチ氏の承認を妨害したのか。
ロバーツ氏の周りの他の判事らも、その理由は分かっている。オバマ系、トランプ系がないのなら、アンソニー・ケネディ氏はなぜ、トランプ大統領の選出を待って、引退を表明したのか。ルース・ギンズバーグ氏はなぜ、引退せず、トランプ氏に後任を指名させないようにしているのか。両者とも、似た考え方を持つ後任を大統領に指名してほしいからだ。そして、トランプ氏は、ケネディ氏の助手だったブレット・カバノー氏をケネディ氏の後任に指名した。
◇「生ける憲法」を信奉
米国民は、ロバーツ氏が間違っていることを知っている。2016年大統領選の出口調査で、有権者の70%が、誰に投票するかを決める上で、最高裁判事の指名は「最も重要」または「重要」と答えた。
世論調査によると、共和党が上院で議席を増やしたのは主に、保守派有権者が、左派によるカバノー氏に対する残忍な個人攻撃に怒ったからだ。
ロバーツ氏の「トランプ系」「オバマ系」があるべきでないという主張は正しい。判事全員が、どの大統領に指名されようが、法と憲法を厳密に解釈すれば、それは国にとっていいことだ。保守系の大統領が、司法抑制の考え方を持つ判事を指名しがちである一方で、リベラル派の大統領は、法廷で立法の機能を果たし、自身の望む結果が出るように法を形成する司法積極主義者を指名する傾向がある。左派は「生ける憲法」を信奉し、正式に修正することなく、望んだ通りの意味を持たせるように解釈する。
民主党の大統領は、共和党の大統領よりも、自身の司法哲学を順守する判事の指名に成功してきた。過去30年間、共和党の大統領による最高裁判事指名のほぼ半分は、サンドラ・オコナー、ケネディ氏のような「浮動票」か、デービッド・スーター判事のようにリベラル派に鞍(くら)替えした。ロバーツ氏も、重要な問題でリベラル派に加わり、判事は立法の役割を果たすべきでないという司法哲学を捨てて、オバマケア(医療保険制度改革)を支持した。逆に、リベラル派の判事は過去30年間、1人として、保守派に鞍替えしたり、保守側に振れたりすることはなかった。
◇言葉の泥仕合は不毛
最高裁に当てはまることは、控訴裁にも当てはまる。最高裁以上ですらある。第9巡回控訴裁は恥ずべきだというトランプ氏の主張は正しい。「忠誠の誓い」の中の「神の下に」という文言は違憲、憲法修正第2条は銃を隠して携帯する権利を認めていない、自殺幇助(ほうじょ)の禁止は違憲などの判断を下したからだ。
だからこそ、トランプ氏が、かつてない数の地裁、控訴裁判事を指名し、上院が承認したことが重要なのであり、リベラル派が、トランプ氏が速いペースで判事を指名、承認していることに驚いているのだ。ヒラリー・クリントン氏の補佐官だったロン・クライン氏は「トランプ氏の判事指名は、2050年、それ以降の米国民の市民的自由の範囲、公民権法の形成に決定的な影響を及ぼす」と不満を漏らした。左派も右派も、誰もがロバーツ氏が間違っていることを知っている。
米国には独立した司法がある。判事は、どの大統領にも恩義を感じるべきでない。自身を指名した大統領に対してもだ。
判事は、チェック・アンド・バランスで重要な役割を担っている。「トランプ系判事」は、トランプ氏が間違っていれば、反対の判断をすべきだ。最高裁長官が党派を超えていることが重要なのはそのためだ。ロバーツ氏が「独立した司法があることに、誰もが感謝すべきだ」と言ったのは正しい。トランプ氏との言葉の泥仕合は、よくないばかりか、ロバーツ氏が支持する司法の独立そのものを損ねる。






