INF破棄、北非核化にも圧力

アメリカ保守論壇 M・ティーセン

日本、グアムに中距離弾配備へ
対中抑止力も向上

マーク・ティーセン

 トランプ大統領は、1987年の中距離核戦力(INF)全廃条約の破棄発表に際して、ロシアが再三にわたって条約に違反し、弾道ミサイルの開発を精力的に進める中国の中距離核が野放しになっていると指摘した。しかし、条約破棄は他にも目的があるのかもしれない。北朝鮮に、非核化を拒否すれば、短中距離ミサイルで包囲し、警告なしで攻撃することが可能になるというメッセージを、間接的だが、明確に送ることだ。

 今のところ、トランプ政権の北朝鮮との核交渉はあまり進んでいないように見える。中距離ミサイルのアジアへの配備という脅威によって、この現状が打破される可能性がある。レーガン大統領は83年、ソ連の核ミサイルSS20の配備に対抗して、西欧に中距離ミサイル、パーシング2数百発を配備する計画を発表した。これに対して欧州全域で抗議行動が起きたが、ロシアに対しても強い圧力となり、INF条約など一連の武器管理への突破口を開く素地ができた。

◇北朝鮮に常に照準

 INF条約の破棄によってトランプ氏は、北朝鮮にも同様の圧力をかけることが可能になる。この条約は、地上配備型で射程500~5500㌔の通常、核どちらのミサイルも保有を禁止している。米国は、この制約から解放されれば、北朝鮮からは約3400㌔のグアム、約1000㌔の日本などアジア内の基地に数百発の通常型短中距離ミサイルを配備できるようになる。そうなれば、軍事的圧力をかけるために、朝鮮半島沖に米空母を一時的に派遣する必要はなくなる。この地域に中距離ミサイルを配備することで、北朝鮮に常に照準を合わせることが可能になる。

 北朝鮮が、自国周辺にこのような米国のミサイルが配備されることを望んでいないことは確かだ。配備によって太平洋地域で米国が軍事的優位性を回復することは中国も望んでいないはずだ。米太平洋軍のハリー・ハリス前司令官によると、中国は「世界で最も強く、最も多様なミサイル戦力」を保有し、そのミサイルの95%は、「中国がINF全廃条約に署名していれば、条約違反となる」。中国がそのようなミサイルを持つ一方で、米国は保有していないため、中国との対立で米国が戦略的劣勢に立たされている。

 アメリカン・エンタープライズ研究所の私の同僚ダン・ブルメンタール氏がワシントン・ポスト紙で指摘したように、中国と紛争になった場合に米国が取り得る唯一の対応は、大陸間弾道弾で攻撃することだ。紛争を激化させる可能性があり、容易には行えない。一方、INF条約を破棄すれば、グアムと日本に通常型の移動式地上配備型ミサイルの配備が可能になり、中国の侵攻を阻止する能力は向上する。

◇地上ミサイル配備へ

 トランプ氏は、条約破棄後直ちに、太平洋に、地上配備型巡航ミサイル、トマホークを配備できるようになる。さらに、禁止されていた新型ミサイルや、音速の5倍以上の速度で飛行する極超音速兵器の開発と配備への道も開け、これらの兵器の開発、配備を精力的に進めてきた中国に対抗できるようになる。これは、中国と北朝鮮にとって、大きな戦略的後退だ。

 そのため、INF条約を破棄し、禁止されていた兵器の配備を可能にすることで、トランプ氏は、新たな交渉の切り札を手にすることになる。

 北朝鮮に対しては、非核化への後押しとなる。中国に対しては、北朝鮮に非核化を迫る新たな戦略的な根拠となる。

 まだ、効果は出ないかもしれない。しかし、中国、北朝鮮との交渉に失敗しても、INF条約破棄によって米国は、別の選択肢を手に入れることになる。つまり、両国に対する効果的な抑止力だ。これによって、この地域での米軍の軍事的優位性はいっそう増す。

(10月26日)