ICCに米国民を裁く権限はない

アメリカ保守論壇 M・ティーセン

米兵の捜査に制裁措置も
世界の民主化に障害

マーク・ティーセン

 米国が署名せず、上院も批准していない条約に基づいて設置され、判決に責任を持つこともない国連の裁判所が、米国民を捜査し、裁き、収監することが許されるだろうか。

 残念だが、これが現実のものになろうとしている。オランダ・ハーグにある国際刑事裁判所(ICC)のファトゥ・ベンソーダ検察官は昨年11月、米軍と米中央情報局(CIA)の将校らがアフガニスタンで戦争犯罪を犯したとして、正式な捜査を求めると発表した。

 ベンソーダ氏は、ガンビア人法律家で、どの政府や公的機関にも報告義務を負わない。同氏は、米政府の主張を無視し、米国民を捜査、起訴する権限があると主張した。

 ハンガリー、フランス、ベニンの判事からなる公判前審議会で数日内に、この要請が承認される。

 誰がこれらの判事に、米国民を裁く権限を与えたのだろう。米政府は、民主的手続きによってこの法廷の裁判権を認めたことは一切ない。にもかかわらず、ICCは今回初めて、この超国家的権限を行使しようとしている。

 トランプ政権が何か言えば、それは阻止できる。ボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)はフェデラリスト協会で、「この法廷が米国を追及するなら、…米政府は反撃し、立憲主義、主権、国民を守る。外国人が集まって、米国が自国民をどう統治し、自由を守るべきかを指図することはできない」とICCを牽制(けんせい)した。ボルトン氏は、米国民を追及するなら、米国は、ICCの判事、検事の入国を禁止し、米国内の資産に制裁を科し、米国の司法制度に基づいて起訴すると主張した。

◇創設時には反対表明

 ICCのことはよく知っている。創設時にそこにいたからだ。上院外交委員会のスタッフとして1988年、条約をめぐる協議が行われたローマ会議に出席した。外交委のヘルムズ委員長は、米国が拒否権を行使できる国連安全保障理事会の「ふるい」にかけるなど、ICC検事らの米国民を起訴する無制限の裁量権を制限する措置が取られなければ、ローマ条約が上院で「否決されることは最初から分かっている」と述べた。この主張は拒否され、ヘルムズ氏は、ICCへの協力を禁止し、ICCが米国民を起訴しようとした場合は制裁を科すとした「米兵保護法」を提出した。この法案は、賛成75票、反対19票の超党派の支持を得て02年に承認された。上院は、ICC設置条約を批准しなかっただけでなく、米国民がICCで起訴されるのを阻止するために、軍事力を含む「あらゆる手段」を講じる権限を大統領に付与した。

 当時は、ICCは必要であり、ICC検事が悪意から米国民の責任を追及することなどあり得ないと言われた。独裁者による重大な人権侵害の追及に専念し、自国民を取り締まる強靭(きょうじん)で透明性の高い司法制度を持つ民主主義国に立ち向かうことはないと考えられていた。しかし、それは間違っていた。

◇イスラエルにも脅威

 ICCは米国民だけでなく、米国の同盟国で、民主主義国であるイスラエルにも照準を合わせている。ベンソーダ氏は15年、ヨルダン川西岸とガザ地区でのパレスチナ人テロリストの攻撃に対するイスラエルの自衛行動への予備調査を開始した。だが、イスラエルはICC条約には参加しておらず、ICCにその権限はない。パレスチナ領も、「国家」ではないのだから、ICCの「国家としての一員」ではない。パレスチナ自治政府のマリキ外相は5月、ハーグを訪れ、イスラエルを追及する訴状を提出し、イスラエル政府の高官らを起訴するよう求めた。

 ICCは、米国民にとって脅威であるだけでなく、同盟国にとっても脅威となっている。そればかりか、民主的変革への障害となっている。冷戦終結後、独裁体制から民主主義体制への移行に成功した国のほとんどは、何らかの執行猶予期間が与えられた。ICCの存在は、独裁者を退かせるのをかえって困難にしている。亡命という道が事実上、閉ざされているからだ。国外での安全性が確保されなければ、独裁者は、そのままの地位にとどまる方がいいと考えるはずだ。ベネズエラのマドゥロ、ニカラグアのオルテガ、イランのアヤトラらを見れば、それは明らかだ。国民が立ち上がっても、逃亡するよりも、群衆に発砲する方が安全だからだ。

 ICCに反対することでトランプ政権は、米国民と米国の主権を守るだけでなく、世界中の民主主義体制を支援している。

(9月14日)