「富士山型のまちづくり」推進 静岡県
静岡県牧之原市長 杉本基久雄氏
一年を通してサーファーが訪れる静波海岸や相良サンビーチを有し、江戸時代の老中・田沼意次ゆかりの地としても知られる牧之原市。郷土の偉人を用いたまちおこしと、沿岸部と高台を開発する「富士山型のまちづくり」に取り組む杉本基久雄市長に話を聞いた。(聞き手=亀井玲那)
アジア初、本格ウエーブプールも
歴史が観光資源に
田沼意次と牧之原市の関係は。またその功績は。
田沼意次は江戸時代、8代将軍吉宗から10代将軍家治まで仕えた老中で、田沼家相良藩の初代藩主を務めた。牧之原には国の無形民俗文化財にもなっている御船神事(おふねしんじ)という神事があるが、これは田沼時代に始まったと言われている。意次が整備した相良湊は今も相良の漁港になっている。牧之原には田沼時代の名残が引き継がれている。昨年は意次の生誕300周年で、さまざまなことを行った。
具体的な取り組みは。
意次にまつわる神社仏閣や史跡を巡る「ぶらり田沼の旅」を、1回20~30人くらいで3回行った。11月の記念大祭では、田沼意次のお国入りを再現した大名行列や、約120店舗の出店、ステージイベントなどを行い、こんなに人がいるのかというほど大勢が集まった。
また牧之原市内には勝間田城(かつまたじょう)という山城跡があるので、春風亭昇太師匠を招き山城の面白さについて話してもらったら、小さい小学校の体育館に約800人が集まって非常に盛り上がった。城巡りのツアーもすぐに申し込みがいっぱいになった。やはり歴史が好きな人、興味がある人はたくさんいて、一つの観光資源になる。
改めて評価と、今後にどうつなげていくか。
市民も改めて自分のまちを知って誇りを持てるようになり、プラスになったと思う。対外的にも牧之原を知ってもらうきっかけになったし、経済効果もあった。
意次は賄賂政治など悪いイメージがあるが最近は見直され、改革の殿様としても知られている。意次再興のプロジェクトには、それを発信し皆さんに考えていただく一面もあり、そこが面白い。
今後は意次の銅像の建立と、NHKの大河ドラマに挑戦しようと。来年、再来年はほぼ決まっているだろうが、何年か先に田沼意次を取り扱ってもらいたい。
牧之原市はサーフィンでも有名だ。
牧之原は海岸線が15㌔㍍あり、3カ所のサーフスポットがある。東京五輪のサーフィン会場の誘致を行う中で、会場は取れなかったが米国と中国という2大大国のサーフィン選手のホストタウンになった。
またアジア初の本格的な人工波のウエーブプールが着工し、今秋には開業する。世界大会のできる規格を備えたプールだ。
世界のトッププロがウエーブプールを回るツアーを行う動きもあり、相当大きいインパクトがあるだろう。自然界の海は天候に左右されるが、このプールはナイター設備もあり、365日いつでもできる。沿岸部の活性化に大きくつながる。
どのような効果を期待するか。
2013年に県から南海トラフ地震の第4次被害想定が出され、これによって沿岸部から人が一気に市外へ出ていく現象が起きた。これを阻止するため、54億円かけて避難施設や避難路を整備し、その結果社会減が止まった。
同時に、もう一度魅力ある沿岸部にしないといけない。昭和50年前後には静波海岸にも100万人の海水浴客が来ていたが、昨年は天候不順もあり20万人。海離れが進み海水浴というレジャーは斜陽化している。
経済効果も含めサーフィンをはじめとする多様なマリンスポーツに期待するとともに、まずは海に親しんでもらう取り組みを推進したい。
牧之原市の課題と今後の展望は。
やはり少子高齢化が課題で、ふるさとがこんなに良くなって、働く場も賑(にぎ)わいもできて帰ってこようかという動きにつなげたい。
牧之原市は相良と榛原に同じくらいの中心市街地がある。沿岸部の旧中心市街地も活性化させて、高台に新たなまちをつくる。「富士山型のまちづくり」と呼んでいる。目玉の一つとして、東名高速道路相良牧之原IC北側で約23㌶を開発して大型商業施設を誘致し、周辺に住宅地を造って新たなまちづくりをする。高台なので津波の心配がなく、市外に出てしまう人たちをここで止める。市と隣接する御前崎(おまえざき)市に浜岡原子力発電所があるため、放射線防護施設を造って安心安全の砦(とりで)とする。
今年はこのビッグプロジェクトが動きだす。1年でできることではない。これから何年かかけて若者を呼び戻すのが、われわれの仕事だ。