甲州弁ラジオ体操で地域づくり 山梨県甲斐市長 保坂 武氏
平成の大合併の後、人口を増やしている自治体がある。山梨県甲斐市だ。県内北西部の3町が一つになり、地域性を活かしつつ、「甲州弁ラジオ体操」などで地域コミュニティーづくりを行い、産院を誘致して子育て世代支援を行っている。保坂武市長に聞いた。(聞き手=岩崎 哲)
産院誘致で子育て世代支援
水害に備え「令和の治水」も
甲斐市は三つの町が合併して誕生したが、新しい市として一体感まとまり感をどうつくっていったか。

ほさか たけし 昭和20年生まれ。同38年山梨県立農林高校卒業。旧竜王町議会議員(3期)、山梨県議会議員(3期)、衆議院議員(3期)、文部科学大臣政務官などを経て、平成20年第2代甲斐市長就任(現在4期目)。
2004年9月1日に竜王町、敷島町、双葉町の3町が合併して誕生し9月で17年になる。合併時、町の将来像を「緑と活力あふれる生活快適都市」として、融合一体化する町づくりを進めてきている。
08年に市長に就任し、この将来像を引き継いだ。旧町ごとに違う地域性が見られた。旧竜王は勤め人が多く、双葉は歴史もあり、山間部になる。敷島も半分以上は昇仙峡など山間部だ。それぞれの歴史、文化、伝統を尊重し、特長を生かしながら、バランスの取れた町づくりを進めている。
特別な融和促進策は。
かつては「うちの町」という意識があり、他所との比較があったが、不均衡がないように行政を進めていくことを心掛けた。旧来の在り方も尊重し、要望を出し合って調整してきている。
甲府に隣接したベッドタウンだが、立地を生かした施策などは。
特別なことはしていないが、甲斐市の人口規模は県内2番目で、合併してから増えている。JR中央線の竜王駅と塩崎駅があり、中央高速の双葉サービスエリアにスマートインターチェンジを整備したところ、予想外に利用が多くて、6月には全面開通する中部横断道(双葉~清水)への出入り口にもなる。交通面では恵まれている。不動産会社が全国1720余りの自治体(回答1389)で「住み心地ランキング」を調査し、甲斐市は91位だった。
地域共同体づくりが全国的に進められているが、取り組みは。

甲斐市 甲府盆地の西部に位置し、釜無川が市の西部を流れ、北部には昇仙峡など景勝地を有する。中心部は甲府市に隣接したベッドタウンとして人口が増えている。中央高速道、中部横断道、JR中央線が通る。平成16年に竜王、敷島、双葉の3町が合併し、人口約7万6000人。
就任以来「ラジオ体操のまち甲斐市」を推進している。地域のコミュニティーづくりには老若男女が世代を超えて行えるものとしてラジオ体操を行っている。「甲州弁ラジオ体操」をつくり、「じゃ、やるけー」「ふんどりけって」などと方言の掛け声を入れたCDを作って普及し、自治会ごとに参加率を競う「チャレンジデーカップ」を行っている。優良団体には賞品を出す。昨年10月に甲斐市はラジオ体操優良団体の全国表彰を受けた。事業所や市役所でも朝礼時に行っている。
子育て世代への支援策は。
子育て環境の良さは定住場所の選択基準の重要な要素だが、市内で出産できる病院・医院がなくなり、市外に行かなければ出産できない状況だった。山梨大学医学部にも協力してもらい、フィンランド発祥の「ネウボラ」(妊娠期から出産、子育てを切れ目なく支援していく)を推進している。市内に産院ができ、妊娠からの相談にも対応できるようになった。「甲斐市版ネウボラ」として母子保健対策の充実を図っている。他に竜王では産科を再開した医院もあり、充実してきた。
市内を流れる釜無川は武田信玄の「信玄堤」で知られるが。
釜無川には御勅使(みだい)川、釜無川、塩川の3本が甲斐市で合流する。信玄の時代どう治水したかを解き明かして堤をつくる「令和の治水事業」に取り組む。流れてきた土砂で川床が上がっている。信玄の時代の川床がどうだったのか。それを解明して、そこまで下げる。浚渫(しゅんせつ)した土砂を両岸に盛れば堤も強化される。10年ごとに浚(さら)っていけばいいのではないか。去年開始する予定だったが、国土交通省、県、市などいくつも関係する所があり、コロナ事態で集まることができずに延期している。
甲斐市のこれからの課題は。
昨年9月、4期目の就任に際して「す5(ご)い甲斐市を目指します」として五つの公約を掲げた。①コロナに負けない、すみやすいまちづくり②水害に強いまちづくり③すくすく育つ、子育てしやすいまちづくり④すこやかに、高齢者が安心できるまちづくり⑤スマート甲斐市、新しいKAI(甲斐)スタイル、次世代につなぐまちづくり――に取り組んでいく。