日本初の本格高地トレーニング施設 長野県東御(とうみ)市長 花岡利夫氏

長野県東御(とうみ)市長 花岡利夫氏

 日本のトップアスリートは、短期間で心肺機能や筋肉機能を向上させるため海外の高地に出向き、トレーニングを重ねてきた。そのような中、長野県東御市に新設された湯の丸の施設は、標高1735㍍にある日本初の本格的な高地トレーニング施設として関係者の注目を集めている。(聞き手=青島孝志)

トップアスリート輩出こそ「使命」
自然活用し葡萄づくり、企業誘致も

東御市は、人口3万弱とそれほど大きな市ではないが、市の特徴を地域活性化のために活用している事例からお聞きしたい。

長野県東御(とうみ)市長 花岡利夫氏

 はなおか としお 昭和26年生まれ。信州大学農学部中退、和洋菓子店経営、参議院議員秘書、東御ロータリークラブ会長などを経て、平成20年東御市長初当選、現在4期。

東御市の概要
(2004年4月1日誕生。市名は、合併した東部町の「東」と北御牧村の「御」の各1文字を取った)
 総面積 112・37平方㌔㍍
 総人口 2万9963人(10月1日現在)
 世帯数 1万2231世帯(同)

 私が結婚して東御市に移ってきて、実感したのが昼間の晴天率の高さだ。365日のうち249日が晴天という地域だ。日照時間の長さ、寒暖の差、降雨量が約900㍉と少なく、その雨も夜に多い。そのおかげで水はけのよい南面傾斜を利用した生食の葡萄(ぶどう)生産高はかつて日本一を誇った。現在、その座は奪われたが、「品質日本一を守っていこう」と市内約300軒の栽培農家が葡萄作りに勤(いそ)しんいる。

 長野は日本の中心に位置し、200㌔先の首都圏とは3時間以内、名古屋とも3時間半。涼しく日当たりが良いため住むには快適だ。高速道路もできて、一定数の企業が東御市を選択してくれた。傾斜地が多く造成費用がかさむのが課題だが、遮るものがなく景色は良い。都会と適当な距離を保ちながらも、都市化していない「程よい田舎」が東御市だ。

市内の湯の丸高原は標高1735㍍で、高地トレーニングに最適な環境だと聞くが。

 マラソンの高橋尚子さんをはじめとする世界のトップアスリートが高地トレーニングをすることで有名なアメリカ・コロラド州のボルダーが標高1680㍍。しかし、海外での練習は移動時間、費用、食事面など多くの課題がある。

 日本水泳連盟競泳委員長、平井伯昌氏が東御市の現地を視察して、国内で本格的な高地トレーニングができれば、より多くのトップアスリートを輩出できると明言された。

高地でのトレーニングは具体的にどんな効果が期待されるか。

 この高さでは、酸素の量が平地に比べて80%から81%しかない。ここで訓練することで、心肺機能や筋肉の機能向上、メンタル面での強化も期待できる。練習後30分以内に食事をすると筋肉に好影響があるとされており、これを受けて、食堂もプールの隣に完備した。

東御市

 

選手の反応はどうか。

 選手からは「標高2000㍍よりは高度への順応が早く、高強度の練習ができる。より身体も動くので練習が面白く、きついけど自分を追い込める」「時差がなく、移動のストレスが少ない。国内なので心配することもなく、安心で安全な食事ができるのが良い」など好評だ。2016年リオデジャネイロ五輪の競泳女子200㍍平泳ぎ金メダリスト、金藤理絵さんも気に入って、PR大使となってくださった。

建設までの苦労は。

 オリンピックの予算が膨大に膨らんだあおりで、国や県の補助も受けることができず、市議会も賛否で割れた。しかし、この施設は日本にとってどうしても必要な施設であるとの信念は変わらなかった。予算は約20億円。起債を認めてもらい、企業などからの寄付、ふるさと納税などを集めて対応した。コロナ禍で春の合宿は中止だったが、6月以降、練習も再開され、今は例年並みの合宿が行われている。

 価値ある事業をすることも地域の町おこしにつながると信じている。大変なプロジェクトだったが、挑戦して良かったと思う。