鮭と共存するまち・新潟県村上市長
新潟県村上市長 高橋邦芳氏
新潟県の最北に位置し、豊かな自然環境を有する村上市。三面川、荒川、大川には平安時代から鮭が遡上(そじょう)し、市中には今も城下町としての面影が多く残っている。自然と歴史と伝統を生かしたまちづくりについて、高橋邦芳市長に聞いた。(聞き手=亀井玲那)
城下町の歴史いかす景観整備
子供の支援引き継ぐ「ぱすのーと」
人口減少、少子高齢化に対する取り組みは。

たかはし・くによし 昭和34年、新潟県村上市(旧村上市)生まれ。県立村上高等学校卒業後、岩船地域広域事務組合、村上市役所などを経て平成27年から村上市長。現在2期目。
【村上市概要】
(平成20年4月1日、旧村上市・岩船郡荒川町・神林村・朝日村・山北町の5市町村が合併し新市として「村上市」が誕生)
総面積 1174.26平方㌔㍍
総人口 5万8504人(10月1日現在)
世帯数 2万2662世帯(同)
村上は雪の少ないエリアと雪の多いエリアが明確に分かれていて、大都市圏で現役をリタイアした後、移住先として選択する方もいる。移住相談会の実施や住宅修復費の補助などを行い、ここ2年間に事業を通じ把握しているだけでも16組の移住者があった。またコロナ禍で県全体が移住先やリモートワークのターゲットとしてメディアで発信されていて、当市にも問い合わせがある。リモートワークへの支援策はこれからだが、じっくりと対応していきたい。
国の幼保無償化に先駆けて村上市では無償化を検討していたところ、国の制度が開始されたので、市としてさらに手厚い支援を併せて実施していく。一昨年、子供の発育・発達を記録する「ぱすのーと」という相談支援ファイルを制度化した。保護者の方に母子手帳と一緒に活用してもらうもので、生まれてからの状況を記録して、医療機関や支援機関、学校などと情報共有する。アレルギーや発達障害などで支援が必要な子供たちの中には、早期に発見してフォローすれば根治する可能性が高いケースもある。保育園や幼稚園から小学校、中学校と上がっていく時に、支援の情報や履歴を確実に引き継ぐことができ、安心感につながる。
豊かな自然環境とそれに根差した伝統文化がある。
村上には鮭と共存してきた歴史的な背景がある。平安時代には京都に鮭を献上しており、江戸時代からは(村上)藩の役人が鮭の回帰性に目を付けて、鮭が再訪するよう人工孵化(ふか)に取り組んだ。これは世界初のことで、官営で保護政策としてやったことに大きな意味がある。また豊かで厳しい自然環境のおかげで素晴らしい特産品が豊富にある。新潟和牛の「村上牛」のほか、お米も村上市の岩船産コシヒカリは「特A」の認証を頂いていて、新潟県産コシヒカリの中でも魚沼産、佐渡産と並ぶ三大ブランドだ。そのお米で造るお酒もとても美味(おい)しい。
それから城下町としての歴史を踏まえてまちづくりを進めている。村上には城下町の四大要素である城跡・武家屋敷・町屋・寺町が今も残っていて、これは全国的にも貴重だ。市民の皆さんを中心に、町並みを昔風の町屋にリニューアルする取り組みが増え、郵便局や商工会議所も協力するようになった。2016年からは国が支援する歴史的風致維持向上計画に県で初めて認定され、町並みの景観整備を進めている。
現在、鮭の人工孵化と市民との関わりは。
小学校や保育園では、子供たちが鮭の卵を地元の漁協からもらって、それを孵化させて4月に放流する取り組みを授業の一環で行っている。鮭は必ず自分の生まれ故郷に戻ってくる魚だ。故郷を大切にして戻ってくるという意味も込めて、鮭の子というキーワードで、子供たちに小さい時からの教育を行っている。村上の学校では水槽に金魚や鯉ではなく鮭の稚魚が泳いでいて、その時期は村上駅でも水槽の中で鮭の稚魚が泳いでいるのを見ることができる。
対外的なPRに対する反応は。
鮭が遡上する10月初めから12月にかけて、多くのメディアで取り上げられ、近年は国内だけではなく韓国やタイといった海外メディアでも放映された。今回の新型コロナウイルスのダメージは大きいが、インバウンドも非常に伸びている。
今後、力を入れていきたいところは。
次の時代を担う子供たちが、自分の故郷と共に生きていきたいという思いでこの地域をつないでいけるような教育を進めたい。またほかの自治体や関係機関との連携もこれからのまちづくりにおいて重要な視点で、道路ネットワークや、エリアごとのつながり、防災協定や友好都市を結んだ自治体などさまざまなツールが、市の行政運営を支える環境づくりにもつながる。