創意工夫で活性化、生き残り懸けた村の取り組み

 人口が5000人を切った自治体では、人口減少問題は切実で待ったなしの課題である。そのような中、創意工夫をしながら地域の活性化と生き残りを懸けて取り組んでいる長野県内の二つの村の村長にインタビューした。(聞き手・青島孝志)

巨峰栽培で移住者呼び込む

長野県生坂村村長 藤澤泰彦氏

長野県生坂村村長 藤澤泰彦氏

ふじさわ・やすひこ 昭和31年、長野県東筑摩郡生坂村生まれ。東京農業大学卒。生坂村議1期と1年7カ月を経て、平成19年2月生坂村長当選。現在、4期目。

 長野県東筑摩郡にある山間の生坂(いくさか)村の人口は8月1日現在、人口1724人。近年は、毎年10人ほどが誕生する一方、30人ほどが亡くなられています。

 人口減少に歯止めを掛ける事業として期待しているのが、平成10年度からの農業公社の「新規就農者研修制度」です。

 40歳未満の若い人が対象で、研修期間は3年。その後、独立して農業で生計を立て、村に永住していただく制度です。農地は、地権者から公社が10年間借りて貸し出します。研修の3年間は、生活費として月額15万円を支給します。

 ブドウは山梨が有名ですが、今は温暖化で長野産が注目されています。昭和60年ごろ「黒いダイヤ」とも呼ばれた巨峰の栽培を始め、今は高級ブドウ品種のナガノパープルやシャインマスカットなどの栽培・販売で、年収1000万円以上を稼ぐ方もいます。この研修制度はすでに20組以上が受けられて、その家族も含めて50人余りが移住しました。村に引っ越してから2人のお子さんが産まれたという嬉(うれ)しいニュースもあります。

生坂(いくさか)村(長野県)

生坂(いくさか)村(長野県)

 一方、空き家バンクの契約数は昨年度、11件と最高でした。程度の良い物件の紹介をしたら、10件以上の問い合わせがあり、6組が見学に来られるというペースです。土地付きで安い物件ですと100万円以下で購入できます。水回りの補助金も出します。都会から古民家に憧れて築100年ほどの農家に引っ越しされた人も近所におられます。幸い、雪もほとんど降りません。

 あと、若い世帯の子育て支援として、18歳までの医療費やインフルエンザワクチン接種も無料です。結婚祝金10万円のほか、出産祝金は第1子10万円、2子20万円、3子30万円、4子40万円の祝金を出しています。今年4子が生まれた家がありますね。また高校、大学、専門学校生を対象に、毎月1・5万から5万円の奨学金制度を設け、卒業後すぐに村に戻り、8年間在住したら奨学金返済免除の特典を付けています。

 小さい自治体は財政的に厳しい面もありますが、例えば新型コロナワクチン接種2回目は9月10日で村の8割以上の人が終了しました。保育園、小中の給食費の無料化や出産祝金など、住民サービスにおいてきめ細かく小回りのできる対応は、小さな村の強みと言えましょう。

 平成の合併を見送った生坂村ですが、住民アンケートを取ったところ、「今後も合併しない方がいい」という回答が半数以上でした。
(談)


交通、水源、教育環境を改善

長野県筑北村村長 関川芳男氏

長野県筑北村村長 関川芳男氏

せきがわ・よしお 昭和21年、長野県東筑摩郡筑北村生まれ。日本大学卒。本城村議3期、筑北村議2期を経て、平成25年11月筑北村長当選。現在、2期目。

 筑北(ちくほく)村は平成17年10月、平成の大合併に合わせて本城村、坂北村、坂井村の3村が合併して誕生し現在、約4300人が住んでいます。長野県のほぼ中央に位置する谷間の山村ですが、JR篠ノ井線が通り、村内には西条(にしじょう)、坂北(さかきた)、冠着(かむりき)と3駅があり、道路は長野自動車道、国道403号・143号が通ります。

 私が村長になって取り組んだのは、働く世代が村に住みながら周辺の長野市、松本市、上田市、安曇野市へと通える交通網の整備・強化でした。具体的には、カーブの多い403号の安曇野市と筑北村の間に矢越峠新トンネル開通(2017年完成)と、筑北村と上田市を結ぶトンネル(2029年完成予定)です。これらの完成でいずれも20分の時間短縮が実現します。

 また、筑北村は非常に水の少ない地域でした。そのため、「脱ダム」を唱えた田中康夫知事の時代に栃平ダムが建設されたが、私たちが要望した28メートルから8メートル低いものでした。ですが、当時の砂防事務所は将来、あと8メートル上げられるだけの土台を造っておられました。

筑北(ちくほく)村(長野県)

筑北(ちくほく)村(長野県)

 その工事許可も下り、2年後には完成予定です。8メートルダムを上げると貯水量が3倍まで増える見込みで、水の確保も安泰です。

 さらに、教育環境の再整備もほぼ終えました。保育園3園を2園にし、将来は1園にします。各3校あった小学校、中学校はそれぞれ1校に統合しました。現在、小学生が110人、中学生が88人です。

 平成27年に小学校の統合により空いた校舎に通信制の日本ウェルネス高校を誘致。この高校はスポーツを中心とした学校であり、蹴球部、硬式野球部ができ、蹴球部はフットサルで県下に敵なしまでに成長しました。

 また、長野県内の高校野球指導者では歴代最多の甲子園通算14勝の実績のある中原英孝氏が野球部監督に就任。創部からわずか1年半で長野県の秋季北信越高校野球県大会で優勝を果たすなど、大きな話題をつくってくれています。

 4年前から空き家を村の「空き家バンク」に登録していますが、首都圏からの問い合わせが多いですね。この2年で、20軒が契約しました。若い人もいれば、農業をしたいという人も。土地付きで250万円から450万円の物件が売れ筋です。水回りの改築には最大50万円の補助金も出しており、確かな手応えを感じています。
(談)