「日本一の子育て村」を継承発展 長野県南箕輪村 村長 藤城 栄文氏
長野県南箕輪村は人口が5年前の国勢調査から754人増加した。県内一の増加率である。自然が豊かで、働く場所が多く、地価も安いとあって移住者が多い。この春、村長選に初当選した藤城栄文氏も東京から移住した一人。村の魅力と今後の政策を聞いた。(聞き手=青島孝志)
県内一の人口増加率
自然、働ける環境も魅力
都会から、長野県の南箕輪村に移住したきっかけは何か。
私は東京に生まれ、37年間、東京で暮らしてきた。妻の実家が高遠町で、3人の子供を里帰り出産。さらに、長野県の保健師になるという妻の夢がかなったことで、自分も南箕輪村に引っ越した。4人目の子供は昨年、この村で産まれた
南箕輪村で実際に生活した印象はどうか。
南箕輪村の魅力は、まず災害が非常に少ない。鳥獣被害も少ない。土砂崩れも少ない。中央アルプスと南アルプスという高い山に挟まれていて、台風の際には、風が弱まっているのではと感じる。雪も年に2、3回少し積もる程度。
空気が澄んでおり、気温の日較差(1日の中での最高値と最低値の差)が大きいおかげで作物の成長、とりわけ蕎麦(そば)の実の生育にはとても良い。私も家庭菜園をしている。幸せに暮らせる所だ。さらに、水が綺麗。農業だけではダメだ、という先見の明のある人がおられて、第2次産業が非常に盛んな地だ。精密機械とかコンデンサーとか直接、海外に輸出している、数百人規模の企業が幾つもある。これらが暮らしやすさに直結している。移住者の割合が非常に高くて、確実に5割は超えている。
移住者が多い背景には地価の安さがある。
この3年間、新築戸建て率が長野県内トップ。過去40年間を見ても、軽井沢の隣にある御代田(みよた)町に次いで2番目だ。人口増の背景には、村民の所得が高い一方で、土地の価格は長野県内77自治体のうち、70番目という安さ。こうなると、家を建てるならば南箕輪村となる。驚くほどの宅地造成が進んでいる。
実はこの地域が扇状地だったため開発が遅れていた。今、自分が住んでいる南原は、昭和40年代から人が多く住み始めた場所だが、現在は南箕輪村で一番の人口増加地域になっている。そこは、9割近くが移住者だろう。
この春引退された唐木一直前村長の業績をどうみるか。
三つの業績がある。第一に、健全な財政運営をしっかりされた方だ。第二に、唐木さんが村長になられた時、村は合併議論が盛んな時だった。結果、村の65%の人が「合併をしない」と反対。論争で村内がぎくしゃくする中、唐木さんは安定した施策で村の発展に尽力された。三番目に、子育て支援施策を周辺地域では先進的に取り組まれて、この村の将来に大きな希望を与えた点も評価できる。子育てに不安がないように、「子育て世代包括支援センター」を立ち上げ、妊娠期から18歳に至るまで切れ目のない子育て支援を、関係機関と連携して進めてこられた。
藤城村長は、どのような施策を行うか。
ほかの自治体の子育て施策が充実する中、南箕輪村が掲げた「子育て日本一の村」として、常に先頭を走っていく覚悟だ。村に移住される方の期待もそこにあるのは間違いないから。その上で私は、デジタル化の部分など新しい分野での挑戦をしていきたい。
村には、所得も高く、社会で成功されておられる方も多い。そういう方々のアイデアを今後、引き出して村づくりに協力してもらいたい。
少子高齢化が話題になるとき、少ない若い世代が多くの高齢者を背負う、という図柄をよく目にするが、あの構図はひっくり返すべきだ。経験豊かで、人として大きく、心にゆとりがある方が活躍できれば、社会はより良くなる。そこの部分をどう行政が導いていくかが大事だ。高齢者が活躍する一方で、20年先、30年先も若い人が集まって新しいことに挑戦している村でありたい。