他人事でない熱海の土砂災害
拓殖大学防災教育研究センター長・特任教授 濱口 和久
日頃から防災意識定着を
自然界の現象は想定外が基本
静岡県熱海市で7月3日10時30分頃に起きた土砂災害(土石流災害)による行方不明者の捜索が続いている(18日時点で18人の犠牲者が確認されている)。今回の現場は静岡県が「土砂災害警戒区域」に指定している地域だった。全国には「土砂災害警戒区域」が約36万カ所ある。土砂災害が起きれば、過去にも犠牲者を伴う甚大な被害がたびたび起きている。
今後も同じような土砂災害が起こる可能性がある。国・自治体は土砂災害を防ぐための安全対策を早急に検討する必要があるだろう。個人レベルでも自宅がある地域の災害危険度をハザードマップなどから確認しておくことが大事である。
遅過ぎた菅首相の対応
土砂災害が起きてから2時間後の12時30分、静岡県の川勝平太知事から陸上自衛隊第34普通科連隊(御殿場市・板妻駐屯地)に災害派遣の要請が行われると、30人の隊員が行方不明者の捜索活動のために派遣された。15時頃には現場に到着し活動を開始する。
ちなみに、全国に駐屯する陸上自衛隊の部隊「警備隊区担当部隊」は、平時から災害派遣時の担任行政区が決められ、災害が起こった場合には、まずはこの部隊が現場に駆け付けて初動対処に任ずることになっている。そのため、部隊では、突発的な災害に備えて速やかに偵察班を派遣し、初動対処ができるように24時間態勢で、1個小隊、約30人が待機の態勢をとっている。
連日、捜索活動の映像がニュースで流れているが、迷彩服を着用した自衛隊員の映像が警察や消防よりも少ないように感じている国民も多いのではないだろうか。これには理由がある。マスコミのカメラが入れない最も危険で厳しい地域を担当しているからだ。自衛隊員の活動の姿は防衛省ホームページから是非ご覧いただきたい。
一方、土砂災害が起きてから7時間後にようやく首相官邸で、被害状況に関する関係閣僚会議が開かれた。土石流が襲う映像は、災害が起きた直後からテレビやインターネット交流サイト(SNS)で何度も繰り返し流されており、菅義偉首相も現場の状況は目にしていたはずである。あまりにも遅すぎる対応だ。二次災害も想定されるなか、他の公務を優先した菅首相の行動は理解に苦しむ。結果的には二次災害は起きていないが、最悪の事態を考えて行動するのがトップの危機管理ではないのか。あるいは、熱海市の一部地域で起きた災害という程度の認識だったのか。
本来ならば、すべての公務を取りやめて、土砂災害の対応に集中する姿勢を国民に示すことこそが、危機管理の司令塔としての首相のあるべき姿だろう。
近年、豪雨が原因の土砂災害が全国的に増加している。昨年だけでも1319件の土砂災害が起きている。また、今年は梅雨の初めから線状降水帯がたびたび形成され、各地で河川の氾濫(はんらん)や市街地の浸水が起きている。土砂災害と同様に河川の氾濫や浸水による避難の遅れも被害を拡大する要因となる場合がある。平成30(2018)年7月の西日本豪雨や、昨年7月の九州南部豪雨の被害は記憶に新しいところだ。
今年5月の災害対策基本法の一部改正により、災害時における円滑かつ迅速な避難の確保のため、「避難勧告」と「避難指示」が「避難指示」に一本化された。熱海市では、「避難指示」を出さなかったことで住民の避難が遅れ、被害を拡大したという指摘もある。
指示待たず自主避難を
「避難指示」は気象庁が発表する土砂災害警戒情報などに基づいて、基礎自治体である市区町村の判断で出すことになっている。熱海市から「避難指示」が出されなくても、住民は前日までの雨量や、この地域が土砂災害警戒区域であることを知っていたはずであり、安全な場所に自主避難をすべきだった。
私たちは、今回の熱海市の土砂災害を他人事(ひとごと)とせず、日頃から「自分事」として捉えて防災意識の定着を図るしか、自分の生命を災害から守ることはできないのである。同時に自然界の現象は想定外が基本であり、備えを怠るべきではない。
(はまぐち・かずひさ)