トランプ氏逆転の可能性は

 11月3日の米大統領選まで1週間となった。世論調査では民主党候補のバイデン前副大統領の優勢が伝えられているが、トランプ大統領の再選の望みが絶たれたわけではない。トランプ氏逆転のシナリオや優位点を探ってみた。(編集委員・早川俊行)

激戦州 世論調査より拮抗か
支持者の熱狂度では圧倒

 米政治情報サイト「リアル・クリア・ポリティクス」によると、26日午前時点の全米支持率平均値は、バイデン氏がトランプ氏を8ポイントリードしている。勝者が総得票数で決まるのであれば、トランプ氏の逆転は難しいだろう。

10月13日、米ペンシルベニア州で開かれたトランプ大統領の選挙集会(UPI)

10月13日、米ペンシルベニア州で開かれたトランプ大統領の選挙集会(UPI)

 だが、米大統領選は各州に割り振られた計538人の選挙人を争う「州取り合戦」だ。激戦州の展開次第では、総得票数で下回っても選挙人数は上回ることがある。2016年の前回大統領選では、民主党のクリントン候補が総得票数では300万票近く上回ったが、トランプ氏が勝利した。

 激戦州のペンシルベニア、ミシガン、ウィスコンシン、フロリダ、ノースカロライナ、アリゾナの6州に限ると、バイデン氏の支持率平均値のリードは3・8ポイントに縮小する。これは、クリントン氏が4年前の同じ時点で保っていたリード(3・6%)とほぼ同じだ。

 トランプ氏が逆転勝利を果たすシナリオとして考えられるのは、フロリダ、ノースカロライナ、アリゾナなど「サンベルト」(北緯37度以南の地域)の激戦州で全勝する。その上で、中西部「ラストベルト」(さび付いた工業地帯)では、オハイオ州を押さえた上で、ペンシルベニア、ミシガン、ウィスコンシン3州のうちどれか1州を制する。綱渡りではあるが、前回のようにトランプ氏が勢いに乗って激戦州を次々に制する可能性は残っている。

 トランプ氏の強みは、支持者の熱狂ぶりだ。新型コロナウイルスの感染拡大が続く中でも、トランプ氏の選挙集会は常に熱烈な支持者で溢(あふ)れ返る。対照的に、感染防止を優先するバイデン陣営の集会に集まるのは多くても100人程度。この「エンスージアズム・ギャップ(熱狂の差)」は、有権者を実際に投票所に向かわせる上で大きな違いを生み出すと考えられる。

 そもそも、世論調査はどこまで正確なのか。前回大統領選で激戦州の世論調査と実際の選挙結果が食い違ったのは、トランプ氏に否定的な社会の風潮から、「隠れトランプ支持者」が世論調査に正直に答えなかったことが一因といわれている。大手メディアの激しい反トランプ報道により、有権者が本音を言いにくい風潮は一段と強まっていると言っていい。

 前回大統領選で精度の高い世論調査によりトランプ氏勝利の予想を的中させた「トラファルガー・グループ」が激戦州で行っている調査では、トランプ氏とバイデン氏の支持率は拮抗しており、両氏の差は一般的な世論調査より小さいとみるべきだろう。ワシントン・ポスト紙によると、民主党内では4年前の再現という「デジャブ(既視感)」を恐れる声も出ている。

 また、前回大統領選では、最終盤で連邦捜査局(FBI)がクリントン氏の私用メール問題の再捜査を始めたことが同氏に打撃を与えた。バイデン氏も息子が絡む新たな疑惑で非難を浴びており、投票日直前に浮上した醜聞が再び影響を与える可能性もある