真実の「日本国憲法」成立過程史
大月短期大学名誉教授 小山 常実
議会審議もGHQが統制
自虐史観植え付け憲法に偽装
当たり前のことであるが、独立国の憲法は、その国の政府や議会(国民)の自由意思によってつくられる。だが「日本国憲法」は、この原則に反する形でつくられたので、憲法としての正統性に疑問符が付く。この疑問を抑え込むために、小学校から大学まで偽りの成立過程史が教えられてきた。
『新しい公民教科書』執筆
この点を憂慮した筆者は、自由社の『新しい公民教科書』の中で、教科書史上初めて成立過程の真実を書いた。この教科書は、マッカーサーによる憲法改正の指示も連合国軍総司令部(GHQ)案の提示も記し、成立過程において政府の自由意思が存在しなかったことを示した。また、「議員の追放と憲法改正の審議」という小見出しの下、帝国議会での「日本国憲法」審議もGHQによって完全統制されていた事実を記した。
「帝国議会では、主として衆議院の憲法改正特別委員会小委員会の審議を通じて、いくつかの重要な修正が行われました。たとえば、当初、政府案の前文は『ここに国民の総意が至高なものであることを宣言し』と記していました。小委員会もこの案をそのまま承認するつもりでしたが、国民主権を明記せよというGHQの要求があり、『ここに主権が国民に存することを宣言し』と修正しました。小委員会の審議は、一般議員の傍聴も新聞記者の入場も認められない密室の審議でした」
傍線部のように、議会審議中にもGHQから憲法改正案の修正要求が出されており、帝国議会の憲法改正審議さえもGHQに完全統制されていた。政府の自由意思だけではなく、国民の代表者としての議会の自由意思も完全に存在しなかったのである。
対して自由社以外の全5社は、さすがに、GHQ案のことを記すが、5社のうち東京書籍等3社は、マッカーサーによる憲法改正の指示という事実を無視する。しかも、GHQが帝国議会の憲法改正審議を完全統制していた事実を、全く記さない。例えば帝国書院は、「帝国議会で約3カ月にわたり審議され、一部修正のうえ日本国憲法として制定されました」と記す。こうして5社は、議会審議が普通に行われ、普通に「修正」を行ったかのように記す。つまり、議会が自由意思を以(もっ)て憲法案を審議し修正したとするのである。
こうすれば、最有力学説である8月革命説(ポツダム宣言を受諾した1945年8月に主権者が天皇から国民に移ったとする)によれば、主権者たる国民の代表とされる議会の自由意思こそが焦点となるから、議会の自由意思が否定されていない以上、「日本国憲法」は有効だということになる。「日本国憲法」を憲法に偽装できるわけである。
しかし、そうはいっても、他社の記述においてさえもGHQ案のことは書かれており、「日本国憲法」成立過程のいかがわしさは相当に生徒の前に露呈している。だから、それを埋めるために、どうしても自虐史観による物語が必要となる。その物語とは、以下の二つである。
①帝国憲法は良くない憲法であり、日本は、占領期に初めて民主主義や立憲主義をアメリカから教わった。だから、連合国から「日本国憲法」を押し付けられたことは良いことである。
②日本は世界を侵略し、多くの戦争犯罪を犯した国家である。それゆえ、「日本国憲法」を押し付けられたとしても、それは仕方のないことである。
国民に真実を広めよう
つまり、日本を滅亡に導くかもしれない自虐史観が再生産される一番の理由は、「日本国憲法」の成立過程が出鱈目(でたらめ)すぎることである。出鱈目さを糊塗(こと)して「日本国憲法」を憲法に偽装するには、どうしても自虐史観が必要となる。それゆえ、真実の「日本国憲法」成立過程史を探求し、中学生に、そして国民一般に広げることが重要である。真実の成立過程史を前提にしたうえで「日本国憲法」のことをどう考えるか、大いに議論すべきだと考えるものである。
(『市販本検定合格 新しい公民教科書』〈自由社、2020年5月〉参照)
(こやま・つねみ)