米国次期政権と対北朝鮮政策
米ヘリテージ財団上級研究員 ブルース・クリングナー氏
来年初頭にICBM実験も
北朝鮮は10日に実施した軍事パレードで大きな新型移動式大陸間弾道ミサイル(ICBM)などの新型兵器を公開した。北朝鮮情勢に詳しい米ヘリテージ財団のブルース・クリングナー上級研究員に今後の米朝関係の見通しを聞いた。
(聞き手=ワシントン・山崎洋介)
北朝鮮の軍事パレードについてどう分析するか。

Bruce Klingner 米中央情報局(CIA)、国防情報局(DIA)で計20年勤務。その後、調査コンサルタント会社ユーラシア・グループなどを経て、現在、大手シンクタンク、ヘリテージ財団上級研究員。
今回は、過去のすべてのパレードを上回る記録的な数の新たな兵器を誇示した。北朝鮮が引き続き、その資源の多くを国民のためではなく、軍備増強に注(つ)ぎ込んでいることは明らかだ。
特に目を引いたのは、初めて公開された大型のICBMだ。従来のICBMよりもはるかに大きく、3~4発程度の複数の弾頭を搭載できる多弾頭型の可能性がある。
だがこれに匹敵する大きな懸念は、北朝鮮がICBMの移動式発射台(TEL)を独自に製造する能力があることを示したことだ。
これまでは2012年に中国から輸入されたトラックを改造した六つのICBM用TELに限られていたが、今回のパレードには計八つのTELが登場した。これにより同時により多くのICBMを配備することが可能になる。金正恩朝鮮労働党委員長はこれを大量生産するよう国内産業に指示を出していた。
こうした脅威に現状の米国のミサイル防衛システムで対応できるか。
米国は1発のICBMに対して4発の迎撃ミサイルで応戦することになっているが、現状でアラスカとカリフォルニアに計44基の地上配備型の迎撃ミサイルしかない。より多くの迎撃ミサイルを配備しない限り、北朝鮮が米国のミサイル防衛システムの能力を圧倒する可能性がある。
今後、北朝鮮は挑発を強めていくと考えられるか。
北朝鮮は通常、米国や韓国で新政権が発足した最初の年に非常に挑発的な行動を取る。北朝鮮は、緊張を高めることによって、米国や韓国を交渉のテーブルに戻し、譲歩を引き出す力を得ることができると考えている。
だからトランプ大統領とバイデン前副大統領のどちらが次期大統領に就任するかにかかわらず、来年初頭に北朝鮮が挑発的な行動を起こす可能性が高い。実験に向けた準備ができているか分からないが、今回初めて公開された大型ICBMを発射することも考えられる。一部の専門家は、北朝鮮がICBMを大気圏に再突入させる技術を持っていないとみているが、実験によってその能力を明確に示すこともあり得る。
トランプ政権の4年間の北朝鮮政策をどう評価するか。
トランプ政権が掲げた「最大限の圧力と関与」は非常に良い方針だったが、適切に実施されなかった。最大限の圧力は、「制裁」「外交的孤立化」「軍事的抑止」の三つの柱から成るが、残念なことに、トランプ氏はそれを自ら損ねてしまった。
制裁に関しては、トランプ氏は北朝鮮と非常に良好な関係にあるからとして、300の制裁案の実施を控えると述べた。外交的孤立化の面では、トランプ氏は北朝鮮における人権上の残虐行為について金正恩氏を批判することをやめてしまった。軍事的抑止については、トランプ氏は2年間にわたって韓国との軍事演習を一方的に中止、または縮小させた。
厳格な検証含む合意目指せ
次期政権は北朝鮮の核とミサイルの脅威にどう対応すべきか。
大切なことは、同盟国と連携し圧力を強化することだ。そのためにも同盟国に法外な負担増を要求したり、駐留米軍を撤退させると脅迫することをやめる必要がある。
新型コロナウイルスの感染状況にもよるが、可能であれば大規模な米韓軍事演習を再開すべきだ。これは軍事的抑止能力を維持するために不可欠となる。
米国はこれまで北朝鮮と八つの合意を結んだが、いずれも失敗に終わった。非常に短く曖昧で、完成度の低い合意だったからだ。
こうした過去の教訓から学ぶ必要がある。かつてのソ連との軍備管理協定のように踏み込んだ厳格な検証手段を持つ合意を目指す必要がある。北朝鮮への関与は継続すべきだが、無計画かつ拙劣なやり方で行うべきではない。
トランプ氏が再選された場合、北朝鮮問題にどう取り組むと予想されるか。
北朝鮮が国連決議に違反したミサイル実験を行ったとしても、核実験やICBM実験を行わない限り、トランプ氏は北朝鮮政策の成功を主張し続けるだろう。もし北朝鮮がその一線を越えて核実験やICBM実験を行った場合、トランプ氏がどう反応するかは分からない。トランプ氏が北朝鮮に対して「炎と怒りに直面する」と威嚇した時代に戻るのか、それとも核やICBMが米国にとって真の脅威ではないと主張するのか定かでない。
正恩氏はトランプ氏の再選を望んでいるか。
トランプ氏の方がはるかに好ましいと考えていると思う。トランプ氏は、北朝鮮の核・ミサイルや他の兵器の脅威に対処しないまま時期尚早に平和宣言を行うなど、拙速な合意に走る可能性がより高いからだ。
トランプ氏は再選された場合、極めて迅速に合意できると述べているが、北朝鮮の脅威を明確に特定し、それに対処する合意を結ぶ必要がある。
バイデン氏が大統領になった場合、北朝鮮政策にどう取り組むと考えられるか。
バイデン氏やその顧問が、同盟国との関係を修復し、軍事演習を再開する姿勢を示していることは良いことだ。しかし、どう北朝鮮問題に取り組むかや、どの程度強力に制裁を実施するかは明確でない。
トランプ政権は北朝鮮政策で十分な成果を挙げなかったが、バイデン氏が副大統領を務めたオバマ前政権も同様だった。前政権の北朝鮮政策について、私は「臆病な漸進主義」と呼んでいた。多くの個人・団体が法を犯している証拠があるにもかかわらず、そのわずかにしか制裁を加えず、その後北朝鮮が行動を変えるか様子を見るという姿勢だった。もし法を犯した証拠があるなら、そのすべてに制裁を加えるべきだ。





