緊急事態宣言は権力の乱用

アメリカ保守論壇 M・ティーセン

議会の予算決定権侵食
行動しない共和党議員

マーク・ティーセン

 

 2016年2月、ドナルド・トランプ氏が、共和党の大統領候補選びで健闘していた頃、マイク・リー上院議員は、保守派グループを率いて「第1条プロジェクト(A1P)」を旗揚げした。憲法第1条に基づく連邦議会の権限の回復を議員らに働き掛けるためだ。リー氏と当時下院議員だったジェブ・ヘンサーリング氏はその時、「議会は立法権の多くを行政府にゆだねてしまい、…国という車の後席から口出しするだけの新しいポジションに就いてしまった。米国は、法が支配する国から、支配者が支配する国へと変わってしまった」と記していた。A1Pの第一の課題は「議会の予算決定権を回復する」ことだ。

 現在、議会の予算決定権は、共和党の大統領によって蝕まれている。1人の大統領が緊急事態権限を使って、議会審議を経てはっきりと拒否された政策を実行するための予算を調達した。こんなことは、議会が1976年に国家緊急事態法を定めて以降初めてだ。これは単に議会を経ずに決めただけにとどまらない。第1条に定めた議会の権限を侵害している。まさに権力の乱用であり、このようなことはかつてなかった。A1Pはこのような事態と戦うためにつくられた。

◇憲法の危機に直面

 立憲保守派なら、上院での戦いを主導して、大統領の異常な緊急事態宣言を無効にし、議会の予算決定権を回復できると思われている。だが、今のところ、そうはなりそうにない。それどころか、言い訳ばかりが目に付く。共和党員らは、大統領はこのような権限を持つべきでないが、していることは、厳密には合法だと主張している。

 残念ながらこれは、行動しないことへの言い訳でしかない。法律学者らは、この緊急事態宣言が合法かどうかをめぐって議論している。厳密には合法だと思われていても、議会には法律で、不適切と見なした緊急事態を無効にする仕組みが与えられている。共和党議員の誰も、議会に法の下に付与されたこの明らかな権限を行使するための表決を行おうとしていない。

 一部の共和党議員らは、緊急事態法を改正し、すべての緊急事態を、議会が延長を承認しない限り、30日で自動的に終了させることを話し合っている。権限を行政から立法に戻すことになり、それで十分だ。しかし、これまでそのような法律は必要なかった。どの大統領も、緊急事態法が定めた権限を乱用することはなかったからだ。

 これまでの59回の緊急事態のほぼすべてが、テロリストのような敵対者に制裁や取引制限を科すものだった。この法律が成立して以降の40年の間に2度だけ、緊急事態が予算を再配分するために使われた。そのどちらも、戦時の建設計画を実施するためだった。一つは1991年の湾岸戦争に、もう一つは2001年同時多発テロ後の軍事対応に関するものだった。トランプ氏が歴代大統領の中で初めてこの法律を乱用したことで、憲法の危機が発生した。

◇壁予算確保は可能

 議会は、この乱用を受けて、法律を改正すべきかどうかを議論できる。しかし、それで、この明らかな権力の乱用に対処する責任が免除されるわけではない。緊急事態に反対する表決を行っても、それは「ショー」でしかないという主張もある。大統領は拒否権を発動し、民主党は、この問題に対処するために実のあることを何もせずに、権力の分立を重視している振りをするだけだというのがその理由だ。だが共和党には、拒否権で覆されないだけの多数の賛成で決議を通過させる力がある。そうすれば、表決は「ショー」などではなくなる。

 トランプ氏の行き過ぎた権限の行使を拒否する表決は、壁の建設に反対する表決ではない。国境の壁を建設するために緊急事態宣言は必要ないということだ。緊急事態を宣言しなくても、財務省の薬物没収基金と国防総省の薬物対策計画から46億㌦を振り向けられる。議会が承認した13億8000万㌦と合わせれば、すぐにでも壁のために60億㌦近い資金が得られる。これは、当初、議会に要求していた額よりも多い。

 共和党議員らが、自党の大統領を支持する義務があるのは理解できる。しかし、緊急事態不承認の決議案に賛成票を投じて権力の乱用を拒否する憲法上、制度上の義務もある。オバマ大統領がトランプ氏と同じことをしたら、一致して反対していたはずだ。憲法第1条が定める議会の権限を守ることがとにかく重要だと思うなら、上院議員らは、結果を気にせず、トランプ氏に反対の声を上げなければならない。

(3月8日)