サウジ記者殺害指示なら代償
アメリカ保守論壇 M・ティーセン
ムハンマド皇太子関与か
米議会が調査要求
サウジアラビアのムハンマド皇太子が、記者のジャマル・カショギ氏の殺害を命じたのではないかとの見方が強まっているが、そうだとしたら、ムハンマド氏は、ロシアのプーチン大統領、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長と同様、自身を批判する者を国外で暗殺させるならず者指導者の同類ということになる。ただ一つ違うところは、プーチン、金両氏は、自国の領事館の中で、敵対者を殺害するほど向こう見ずでも、愚かでもないという点だ。
ワシントン・ポストにコラムを寄稿していたカショギ氏の失跡は、ぞっとするような犯罪だ。表現の自由を信奉し、アラブ世界を含む誰もが自由であるべきだと考える人々にとって、深く心を揺さぶられる出来事だ。
カショギ氏の失跡は、トランプ大統領への裏切りでもある。トランプ氏は就任後、サウジを最初の訪問国とし、ムハンマド氏と、同氏が進める改革へ信任を与えた。米国在住のカショギ氏を残忍な方法で殺害したとなれば、トランプ氏の信任を裏切る結果となる可能性がある。この裏切りによってトランプ氏は、途方もない困難を抱えることになった。三つの課題を解消する方法を見つけなければならない。
◇イランへの対抗勢力
第1は、米国は、カショギ氏の死亡を無視したり、隠蔽(いんぺい)したりできない。トランプ氏がしようとしても、議会が許さないし、許すべきではない。必ず付けが回ってくる。
第2は、ムハンマド氏はどこにも行かないということ。サウジは王国であり、ムハンマド氏は国王の息子だ。この数年間、着実に政敵を排除し、権力を固めてきた。新たな指導者が現れて交代するという考えは現実的でない。そのような指導者がもし、現れたなら、保守的な宗教勢力を掌握し、腐敗を一掃し、サウジ社会を開こうとしてきたムハンマド氏の改革を押し戻そうとする人物となる可能性が高い。慎重に考えなければならない。
第3は、サウジは米国に必要ということだ。原油の供給源としてはそれほど重要ではない。フラッキング(水圧破砕法)という新技術によってエネルギー自給率は大幅に上がったからだ。重要なのは、中東での米国の権益への大きな戦略的脅威となっているイランへの対抗勢力としてのサウジだ。イランの脅威に対抗するための最も重要な同盟国だ。中東のほかのどの国もその役割は担えない。サウジと恒久的に断絶することはありえない。
トランプ氏はどうすれば、これら三つの課題を収拾できるだろうか。答えは、できないだ。不愉快で、納得のいかない結果となる。
何とか前に進めようとしているトランプ氏を攻撃する民主党員らは、自身の欺瞞(ぎまん)を振り返るべきだ。アメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)の私の同僚、ダニエル・プレトカ氏は「トランプ氏を非難するくらいなら、シリア内戦についてオバマ(大統領)を非難すべきだ」と訴えた。シリアでは、米国が傍観し、何もしない中で、47万人以上の男女、子供が死亡した。あの8年間に中東に関与した民主党こそ、流血の責任を問われるべきだ。
◇超党派の議員が書簡
今後、どうなるのだろうか。米国がサウジを必要とする一方で、サウジも米国を必要としている。トランプ氏はサルマン国王に、サウジは米国の軍事支援がなければ、「2週間」と持たないと語った。その通りだ。米国はサダム・フセインの侵攻からサウジを守った。今はイランから守っている。
それ以外にも米国にできることがある。トランプ氏は、この事件でサウジは、米議会からの超党派の支持を失ったことをはっきりさせるべきだ。
米国はサウジと違い、王制ではない。議会は中東政策に影響力を持つ。軍事援助、武器売却を阻止し、サウジに償わせることができる。超党派の上院議員らがトランプ氏に書簡を送り、マグニツキー法に基づいて調査するよう求めた。重大な人権侵害を犯した外国人に対して、移動の制限や資産の凍結などの制裁を科すことを義務付けた法律だ。
マグニツキー法による制裁は、効果があるはずだ。王室メンバーは、アラビア半島から出て、自国ではできないことをするのが好きだからだ。ムハンマド氏が断絶を避けたいなら、責任を認め、償うことだ。このミスの重大さを理解していることを明らかにし、サウジを国際的なのけ者にしてしまったことを認めなければならない。政治犯の釈放など必要な措置を講じて、この穴からはい上がることはできるはずだ。ムハンマド氏が、サウジの近代化を望んでいることは誰もが知っている。
イスタンブールのサウジ総領事館で起きたとみられる中世を思わせるような恐ろしい出来事は、ムハンマド氏が抱いている希望とは相いれない。
(10月19日)






