混乱のトランプ政権、外交で実績

アメリカ保守論壇 M・ティーセン

米国への信頼を回復
孤立主義の道選ばず

マーク・ティーセン

 ワシントン・ポスト紙のボブ・ウッドワード記者は新著「フィア(恐怖)」で、トランプ大統領が2017年4月、サリン攻撃によって口から泡を吹いて死亡したシリアの子供たちの画像を見て、マティス国防長官に電話をかけ、軍事攻撃でアサド大統領を排除する計画を立てるよう命じたと指摘した。

 同書によるとトランプ氏はマティス氏に「やつを殺せ。行って、奴らを殺せ」と言った。マティス氏はトランプ氏に「すぐに取り掛かる」と言ったという。

 しかし、マティス氏は電話を切ると補佐官に「実行はしない」と言った。ウッドワード氏によると、マティス氏はトランプ氏に、限定的な攻撃計画を提示した。

 アサド氏は現在、反政府勢力の最後の拠点イドリブ県で300万人の命を危険にさらしている。トランプ氏の勘が的中していたことは明らかだ。シリアの独裁者をあの時に排除しておくべきだった。

◇レッドラインを順守

 トランプ氏が2016年に大統領に選出された時、孤立主義が強まり、海外から撤退するのではないかとの懸念の声が上がった。そうはならなかった。トランプ氏は、孤立主義の道を選ばず、そればかりか前任者を大幅に上回る外交攻勢を仕掛けている。

 シリアでは、アサド氏を排除しなかったが、オバマ前大統領の化学兵器使用に対するレッドライン(越えてはならない一線)を順守し、1度ならず2度も攻撃を実施して、世界からの米国への信頼を取り戻した。先週にはシリア・イラク国境の過激派組織「イスラム国」(IS)の最後の拠点を米国主導の有志連合軍が攻撃した。カリフ制国家はいずれ完全になくなる。オバマ氏と違いトランプ氏は、テロリストを野放しにするようなことはしない。ワシントン・ポストによると、トランプ氏は、全シリア人に受け入れられる政府を樹立し、すべてのイラン軍と代理勢力が排除されるまで、シリアでの「軍事的関与を無期限に継続する」新戦略を承認した。保守派コラムニストで、根っからの孤立主義者のパトリック・ブキャナン氏は最近、「トランプ氏はシリアでネオコン(新保守主義)になるのか」と問い掛けた。

 イスラエルでは、エルサレムを首都として認め、米大使館をエルサレムに移転した。過去3代の大統領が約束しながら、実施してこなかったことだ。イランの核合意からも離脱し、中東での政策の焦点を、イランに取り入るのでなく、イスラエル、サウジアラビアなど同盟国との関係を強化することに改めて向けた。

 アフガニスタンでは、慎重な検討を行い、軍幹部らに難しい課題への対応を迫り、公約であった米軍撤収を翻して、増派を行った。撤退期限は設けていない。トルコでは、エルドアン政権に対し強硬な態度を取り、関税を課し、トルコ・リラは急落した。これらは、米国人牧師アンドルー・ブランソン氏の拘束を続け、シリアの米兵を威嚇し、ロシアから最新鋭迎撃ミサイルS400を導入する計画を進めているトルコを罰するためだ。

◇ロシアに強硬姿勢

 ロシアに対しては驚くほどの強硬姿勢を取っている。ウクライナに対して大規模な兵器供与・支援計画を承認、60人のロシア外交官を追放するとともに、少なくとも4度の制裁をロシアに新たに科した。制裁は、①米選挙への介入②中距離核戦力(INF)全廃条約違反③ロシア国籍保有者に対する英国での化学兵器攻撃④北朝鮮への制裁違反-に対して科せられた。トランプ政権は最近、ロシアに対して、イドリブ県でのアサド政権の攻撃を支援すれば、「完全な経済的孤立」に直面することになると警告した。これらの対露政策は、7月のヘルシンキでのプーチン・ロシア大統領との無残な記者会見を補って余りある。

 北朝鮮では、軍事行動で威嚇し、金正恩氏を交渉のテーブルに着かせた。非核化達成の可能性は小さいが、歴代大統領の取り組みがすべて失敗したことを考えれば成功だ。トランプ氏は無意味な合意には署名しない。オバマ政権下で交わされたイラン核合意からの離脱の際に、効果的な合意のハードルを高く設定したからだ。

 評価すべき外交政策はまだある。トランプ氏は、ベネズエラの独裁体制に対して強硬な姿勢を取ってきた。マドゥロ政権排除を目指すクーデターも検討した。北大西洋条約機構(NATO)加盟国に数十億ドルもの資金を拠出させて、集団安全保障を強化した。設立条約に米国が署名していないにもかかわらず、米兵と米国民への裁判権があると強弁する国際刑事裁判所(ICC)に宣戦布告した。リベラル派は、これらすべてに反発するかもしれない。しかし、保守派国際主義者の長期的な政策目標は、達成されようとしている。トランプ政権内は確かに混乱しているが、少なくとも今のところは、その混乱が非常にいい結果を出している。

(9月19日)