中国ワクチン外交、途上国でホームランとなるか

yamada

 

 2021年。新型コロナという“鬼”に対し、ワクチンが強力な“鬼滅の刃”になり得るか。私たちの関心の的は米欧のワクチンだが、忘れてならないのがまた中国。世界各地で中国製ワクチンによる「ワクチン外交」を展開しているからだ。

 昨年11月末以後、まずブラジル、インドネシア、エジプトなどに大量の中国製ワクチンが到着し、拍手や感謝の言葉に迎えられた。拍手と感謝は、11月末に中国・南寧で開かれた中国ASEAN(東南アジア諸国連合)博覧会で、習近平国家主席が演説した時も同様だった。「コロナ・ワクチンは国際公共財。皆に接種を」との立場で、その提供には「ASEAN諸国の要望をしっかり考慮する」と強調したのだ。

 中国は、製薬企業3社が多くの国でワクチンの治験を続けてきた。シノバク社はブラジル、インドネシア、トルコ、シノファーム社はエジプト、ペルーなど7カ国、カンシノ社はパキスタン、チリなど5カ国。ワクチンが完成したら供給する約束だ。だが、治験実施国以外にもどんどん売り込む。ワクチンは中国外交の重要な武器となりつつある。

 カンシノ社は昨年3月、世界で最も早く実験を始め、夏には3社とも最終第3段階の治験に入った。中国の強みは、第1に強権で自国内の爆発的感染拡大を封じ込めたこと。現に自分の家が大火事の欧米では、自国優先の大統領令も出すはめとなる。第2に安価なこと。親方五星紅旗で、10分の1以下の価格にもなるという。だから多くの途上国にとり、米欧ワクチンは当分高根の花、中国ワクチンは有難い、ということになる。

 だがワクチン外交は問題も抱えている。中国はまだ第3段階の最終治験結果を公表していない。中国政府は年末31日に、シノファームのワクチンを条件付きで承認したが、同社が提出した数字「有効性79%」は中間結果だ。あとは治験先の国が「有効率86%」とか「50%以上」と発表しているだけである(どの数字も、95%という米国製より低い)。 ワクチンはまだ完成途上であり、治験国内からは「私たちはモルモットか」「怖くて接種を受けたくない」といった声も出ている。

 一方、中国のSNSでは「一般中国国民もまだ接種できないうちから、なぜ『外国人ファースト』なのか」との批判がかなり流れた。国営メディアはそんな批判を気にしてか、「中国ワクチン外国到着」ニュースを、意外に小さく扱っていた。

 しかし、中国は昨年様々な問題で国際批判を招き続けた。「マスク外交」を展開したが、欠陥マスク問題もあり大成功とは言えなかった。ワクチン外交で“走者(悪評)一掃のホームラン”を放ちたいだろう。

 実際、中国ワクチンが途上諸国での主要な“刃”になる可能性はかなり強い。コロナによる「史上最悪の教育破壊」(グテレス国連事務総長)でも、最悪中の最悪は途上国の児童生徒がどんどん中退してしまっている問題だ。途上国側も喉から手を出している。

 習近平氏に「国際公共財」などという語は似合わない。

 中国は国連の義務的分担金比率こそ米国に次ぐ第2位で12%だが、義務分担金に国連機関の活動のため任意で拠出した年間金額を合算すると、ドイツ40億㌦、英国35億㌦、日本24億㌦よりずっと少ない14億㌦。結局、自国権益に直結する2国間協力ばかり熱心なのだ。

 途上諸国のため、中国ワクチンの成果を願う。でも覇権主義的影響力・利益拡大のホームランはうれしくない。米欧、インドなどのワクチンが早く、国際的分配枠組みも通じて途上国にも向かうよう期待したい。

(元嘉悦大学教授)