イスラエル 3月に総選挙 右派新党、リクードとの連立拒否
昨年5月に緊急統一政府として発足したネタニヤフ首相率いる与党右派リクードとガンツ副首相兼国防相の中道政党連合「青と白」による大連立政権が崩壊した。今年3月23日に、ここ2年間で4度目となるイスラエル総選挙が行われる。リクードと右派新党「新たな希望」との対決が予想されるが、争点は汚職で起訴されたネタニヤフ氏の首相続投か否かだ。
(エルサレム・森田貴裕)
ネタニヤフ暫定政権継続も
第23期クネセト(イスラエル国会、定数120)が昨年12月23日に解散した。連立政権内での対立によって予算案を22日の期限内に成立させることができなかったことが原因だ。連立政権を組むリクードのネタニヤフ氏が単年度予算の成立を目指したのに対し、「青と白」のガンツ氏は2年間の予算を要求した。ガンツ氏には、2年間の予算を組むことで、連立合意にある通り、2021年11月にネタニヤフ氏からガンツ氏への首相職の引き継ぎを確実なものにする意図があった。ネタニヤフ氏は予算成立期限を延長しながらこれを拒み続けてきた。12月21日に予算案の成立期限をさらに31日まで延長する決議案が提出されたものの、リクードの議員からも反対票が投じられ、否決された。その結果、予算不成立により自動的に解散となった。
イスラエルでは、19年4月に総選挙が行われて以来、リクードと「青と白」のいずれの勢力も過半数に届かず、同年9月と20年3月にも総選挙が行われた。ネタニヤフ氏の汚職疑惑を批判し、腐敗した政権の交代を訴え、ネタニヤフ氏打倒を掲げていた「青と白」を率いるガンツ氏は一転し、新型コロナウイルスの脅威に対処するためとしてネタニヤフ氏のリクードとの連立で合意。5月に緊急統一政府として発足した大連立政権だったが、7カ月で崩壊する結果となった。
汚職疑惑の裁判が続くネタニヤフ氏に対しリクード内では既に、自身の生き残りのために予算成立を先延ばしにし、政治危機を起こしたとの批判が拡大しており、数人の議員が離党した。ネタニヤフ党首の辞任を求め党首選に臨むなどし、12月初めにリクードを離党したサール元内相は、打倒ネタニヤフ氏を掲げ右派新党「新たな希望」を結成した。ネタニヤフ氏の側近で23日に水資源相兼高等教育相を辞任したエルキン氏も「ネタニヤフ氏は自己保身のため党を破壊した」として離党。サール氏の「新たな希望」に加わった。サール氏は12月27日、テレビ局チャンネル13のインタビューで「われわれは、国家の利益に反し継続的支配を行うネタニヤフ氏に対して妥協はしない。いかなる状況であってもネタニヤフ氏主導の連立に加わることはない」と述べた。
イスラエルのテレビ局による12月27日の世論調査では、リクードが28議席で首位を維持し、サール氏の新党「新たな希望」が19議席で続くと予想されている。ネタニヤフ氏のアラブ諸国との国交正常化を実現させた政治手腕への評価もあり、リクードへの支持は揺らいでいない。一方、ガンツ氏の「青と白」は5議席と支持は急落し、ネタニヤフ氏打倒を主張するものの、次の選挙で政界から消える可能性も出てきた。
首位のリクードも他の政党と連立しなければ政権を樹立することはできない。政治、宗教、民族などで多様な意見のあるイスラエルでは完全比例代表制で総選挙が行われる。1948年の建国以来、単独政党が過半数を獲得したことはなく、常に連立政権が組まれてきた。
与党リクードを率いるネタニヤフ氏は、次期連立政権を目指し、政敵となる右派に対しても連立を持ち掛けるとみられる。「新たな希望」は、アラブ系政党の協力なしに多数を取ることは困難とみられ、いずれの勢力も過半数に至らなければ、新政権が樹立されるまでの間は、有罪が確定されない限り首相職を辞める必要のないネタニヤフ氏による暫定政権が続く可能性がある。