【社説】アフガン情勢 人権改善へタリバンに圧力を
アフガニスタンでイスラム主義組織タリバンが権力を掌握して半年がたつが、国内は依然安定していない。国際社会は、飢餓に苦しむ国民への支援を一層強化すべきだ。
深刻な食料不足に陥る
タリバンは昨年8月15日、米国の支援を受けたガニ政権の崩壊を受けて、首都カブールを掌握。「アフガニスタン・イスラム首長国」の樹立を宣言した。
タリバンは厳格なイスラム法の解釈に基づき、女性の教育、就労に否定的で、権力掌握後、大部分の女性は教育を受けられなくなっている。男女を分離する環境が整っていないためとタリバン側は言うが、女性の教育への軽視が解決を遅らせている一因だろう。さらに、職を追われる女性公務員も相次いでいるという。
さらに、食料不足も深刻だ。世界食糧計画(WFP)は昨年10月、「11月以降、人口の半数以上、過去最大となる2280万人が急性食料不安に陥る」と発表し、食料支援の必要性を訴えた。ビーズリー事務局長は「世界で最悪の人道危機の一つ。アフガンの食料安全保障は崩壊した」とその惨状を伝えている。
国連、人権団体などの必死の要請にもかかわらず、支援はそれほど集まっていない。国連は1月に入って「食料、教育、経済の崩壊を阻止するため」5000億円超の支援を各国に要請したものの、9日の発表によると集まったのはわずか9%にすぎない。
経済制裁も経済の悪化、食料不足に拍車を掛けている。約8000億円とされるアフガン中央銀行の資産は米国で凍結されたままだ。タリバン支配の暫定政権に資産が渡ることを阻止するためだが、制裁が解除されない限りこれらの資産凍結が解除されることはない。
米国はそれらのうちの約半分をアフガンの人道支援に充てることを決め、バイデン大統領は既に大統領令に署名している。タリバン側は強く反発しているものの、困窮している国民に直接、支援を届ける仕組みを構築することが急務だ。
また、治安も改善していない。タリバンによる報復で旧政権関係者ら100人以上が殺害されたとみられている。国内に潜伏する過激派組織「イスラム国」(IS)のテロも続く。
1月下旬、これら人道危機の解決のため、ノルウェーの首都オスロで欧米各国との対面での会合が開かれた。欧米代表とタリバンが協議するのは初めて。アフガンのムッタキ外相代行らが参席した会合で欧米各国は、人道支援の開始には人権状況の改善が必要との考えを伝えた。
今のところタリバン暫定政権を承認している国はなく、欧米との会合は、タリバン政権の「既成事実を認める」ものであり、タリバンにとって「大きな成果」との批判が噴出した。
国民への直接支援を
人道支援だけでアフガン情勢の改善は不可能だ。国際社会は、タリバンが約束した国内のあらゆる勢力による「包括的政権」の樹立、法の支配、治安の改善、人道・人権危機の緩和を一層強く求めるとともに、制裁で苦しむ国民への直接支援の方法を模索すべきだ。