【社説】露の停戦破棄 正当化できぬウクライナ侵略
ロシアのプーチン大統領は、ウクライナ東部の親露派支配地域の独立を承認し、露軍派兵を決定することで同地域の停戦合意を破棄した。バイデン米大統領はロシアのウクライナ侵攻が始まったと指摘し、今回のウクライナ危機における制裁第1弾を発表したほか、英国、カナダ、欧州連合(EU)、わが国なども対露制裁を表明した。ロシアの侵略を糾弾する国際社会の強い対応が必要だ。
親露派地域の独立承認
プーチン氏が東部ドネツク州、ルガンスク州の一部である親露派支配地域の「ドネツク人民共和国」「ルガンスク人民共和国」の独立を露議会の決議採択を受けて承認する大統領令に署名し、「友好協力・相互援助条約」を結んで「平和維持軍」との名目で露軍派兵を決定したのは牽強(けんきょう)付会の侵略正当化にほかならない。
ロシアの行為は2014年のウクライナ南部クリミア半島併合から続く、他国の領地をもぎ取る侵略だ。グテレス国連事務総長が「ウクライナの領土保全と主権の侵害」と非難し、米欧の首脳らが「明確な国際法違反」などと批判した通り、断じて容認できない。
ウクライナのゼレンスキー大統領は「国境はあり続ける」と声明を発表し、「明確な支援」を西側諸国に求めたが、長い忍耐を強いられている。北大西洋条約機構(NATO)加盟の実現を公約して当選した大統領であり、加盟申請を行うか否かは主権国家として決めることだ。
クリミア併合を行ったロシアは、外交力でも政治力でも経済力でもスラブ同胞国家であるウクライナのNATOおよびEU接近を止められず、最後に残った軍事力を交渉材料にして今回のウクライナ危機を起こした。ウクライナのNATO加盟を阻止するために手段を選ばず暴挙を繰り返し、危険な国と世界から烙印(らくいん)を押される道を選ぶのは極めて遺憾だ。
懸念されるのは、バイデン氏があらかじめ米情報機関の分析に基づいてプーチン氏がウクライナ侵攻を決断したと確信すると表明したように、ロシアは両「人民共和国」承認にとどまらず、武力によるウクライナ支配に進みつつあることだ。
ロシア、ウクライナ、フランス、ドイツがウクライナ東部地域の停戦に向けて交わしたミンスク合意を、プーチン氏は「今は存在しない」と述べて破棄した。クリミア併合と同時期に起きた東部の「内戦」は、今回の露軍派遣決定で烈度が高まって再発することになる。ロシアはベラルーシとの共同軍事演習でウクライナの首都キエフ攻略の圧力もかけており、本格的な戦端を開く口実作りも情報戦を含めさまざまあり得よう。
大規模な制裁リストを
わが国を含む先進7カ国(G7)は、ロシアのウクライナ侵攻に応じた制裁を段階的に科す方針だが、ロシアに思いとどまらせるに値する大規模な制裁リストにならなければ意味がない。万が一、ウクライナが犠牲になればロシアと西側諸国との関係悪化は避けられない局面となり、わが国としても冷戦期の再来を覚悟した対応と代償がいるだろう。