漁業・養殖業復活へ政策大転換を

一般社団法人生態系総合研究所代表理事 小松 正之

水産資源は国民共有財産
漁業権制度改め新規参入促進を

小松 正之氏

一般社団法人生態系総合研究所代表理事
小松 正之

 2018年改正漁業法が20年12月に施行された。そこで改正漁業法の効果としての漁業・養殖業と水産業の将来の展望について、水産会社と沿岸漁業者と養殖業者に話を聞いてみた。問題なのは、漁業者も水産会社も改正漁業法について、水産庁や都道府県の水産関係課から説明を受けたことがないというのがほとんどであったことだ。

 水産庁には真摯(しんし)に説明する意欲がみられない。また、全国漁業協同組合連合会(全漁連)や漁業協同組合(漁協)は、本改正は補助金や補償金の根拠である漁業権の効力の削減を意味するとし、反対の立場である。

 水産庁の今回の漁業法の改正の狙いは、現状から踏み出す危険をできるだけ回避することであり、日本の漁業・水産業の復活戦略を提示してはいない。

改正法に期待せぬ業者

 漁業・養殖業者の改正漁業法への見解を紹介しよう。岩手県の先駆的養殖業者は「既に空き養殖場が拡大しており、新規参入がないと漁村が衰退する。多くの漁業者は漁協を活用する意欲も能力もない。販売ノウハウもない。自らマーケットを拡大する意欲もみられない」と語る。また「養殖業も企業化を推進する必要がある。現在は労働力も家族で行い、隣近の漁業者との付き合いも希薄である」との意見も聞かれる。

 水産会社は「漁業法改正後も、何も変わらない。DHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)など(のサプリメント)は売れるが、魚や水産物の販売は減少。世界企業として、原料調達の持続性が重要。『シーフード・ビジネスのための海洋保護協会』(SeaBOS)から持続的な調達を要求される。日本は補助金の提供で漁業の改革が進まない。日本では世界の常識の科学的根拠に基づく資源管理がなぜ進まないのか」との疑問を呈する。

 中小漁業会社は「水産庁と県から何も説明がないに等しいので、沿岸漁業者は法改正の内容を理解していない。漁業・資源管理政策の根本はデータであり、漁業者の義務である漁獲データの提供に関し、都道府県による適切な規則改正もない。また、漁協が漁業者からの漁獲データ収集に積極的対応を取っていない。漁協が補助金や補償金にすがる体質は変わらない。漁協の決算が赤字続きで、補助金と寄付金や補償金でカバーする財務諸表の作成に四苦八苦している。漁獲物やガソリンの販売など経済事業を実施し、赤字を出している漁協が、公的性格を有する漁業権の管理をすることは不適切である」との意見である。

 水産会社は「今後、大規模で広範囲の漁場の確保ができるのか。また沖合域での養殖場が必要であり、温暖化での海水温上昇とともに漁場の移動が円滑に行える養殖場なども重要となる」と語る。また別の会社は「現在の漁場では漁協の顔色をうかがい、こじれないように気を使う。漁業法改正では漁業権の免許の優先順位は削除され、水産庁は『漁業への新規参入の促進』と『成長産業化』を謳(うた)ったが、新規参入の促進の説明がない」との不満を述べる。

 このように、18年の漁業法改正では、日本の漁業・養殖業の復活戦略と将来の方向性が示されていない。小手先の技術的な法律の文章上の改正にすぎない。

「新しい漁業法」創設を

 現在の漁業法は1901年(明治34年)に成立した旧明治新漁業法が定めた漁業権の制度をいまだに保持している。そして、水産資源の所有権は漁業者による無主物先占である。これでは資源の乱獲からの脱却は不可能である。従って全く「新しい漁業法」の創設が必要であり、そこでは、「海洋と水産資源は国民共有の財産」と明確に位置付けるべきだ。さらに、漁協が漁業者に漁場・漁業の行使権を与えるという、漁協が介在する現行の漁業権の制度は廃止すべきだ。

 漁協を漁業権から切り離し、養殖業を営む制度も、都道府県が直接許可することである。この方が地元企業の新規参入を促進する透明で簡潔かつ効果的な制度となる。赤字がたまって補償金と補助金頼みの漁協をそのまま放置するのか、地域経済と日本の漁業・水産業を振興するのか。明確な政策の転換が必要である。

(こまつ・まさゆき)