同性婚裁判の異常さ 賛成派も「非民主的」
オバマの対宗教戦争・第1部
神を見失うアメリカ(15)
米国の同性婚賛成派は6月、連邦最高裁までもつれた二つの重要な裁判で勝利を収めた。これにより、米最大の人口を誇るカリフォルニア州で同性婚が再び認められたほか、結婚を男女間の法的結合と定義した連邦法「結婚防衛法」の規定が無効になった。だが、裁判の過程と結果は、同性婚反対派だけでなく賛成派からも「非民主的」との声が上がるほど、異常な内容の連続だった。
カリフォルニア州では2008年、同性婚を禁止する州憲法改正案「提案8号」が住民投票で過半数の賛成を得て承認された。これに対し、2組の同性カップルがサンフランシスコの連邦地裁に提訴したのが裁判の始まりだ。
ところが、同性婚に賛成する当時のジェリー・ブラウン州司法長官(現知事)は、裁判で改正州憲法の合憲性を主張することを拒否。民主的な手続きを経て改正された州憲法を、州政府は擁護しないと一方的に決めたのだ。このため、提案8号を推進した同性婚反対派市民団体が、州に代わって裁判を争うという異例の展開となった。
連邦地裁は改正州憲法を合衆国憲法違反と判断。ところが、判決を下したボーン・ウォーカー判事は引退後に、男性医師と10年間にわたり関係を持ってきた同性愛者であることを告白した。判事の性的指向が判決に影響を及ぼした可能性が高い。
続く連邦高裁も違憲判断を下す。高裁では審理を担当した3人の判事のうち、スティーブン・ラインハート判事に問題があった。同判事の妻は、同性婚を強力に推進するリベラル派団体「全米自由人権協会(ACLU)」の幹部として原告に助言を与える立場にあったのだ。
同判事はこの裁判から外れるよう同性婚反対派市民団体から求められたが、これを拒否し、違憲判断を下した。判決は2対1だっただけに、別の判事に代わっていれば、結果は違っていたかもしれない。
そして最高裁。市民団体には州憲法を擁護しないと決めた州政府に代わって控訴する資格はないとして訴えを却下。これにより、同性愛者のウォーカー判事が下した地裁判決が維持され、カリフォルニア州で同性婚が再び認められることになった。結局、同性婚に「ノー」を示した州民700万人以上の意思は、州政府の責任放棄によって否定されてしまったのである。
これは法治国家としての信頼性に重大な疑義をもたらすものだ。行政府にとって気に入らない法律があれば、裁判を拒否するだけで撤廃できるという悪しき前例をつくってしまったからだ。
保守派コラムニストのロバート・ナイト氏は「知事は今や、三権分立の制約を受ける公僕ではなく、王様のような存在になった」と批判。勝訴を喜ぶ同性婚賛成派からも「判決は正義と民主的統治の味がしない」(リベラル派政治ブロガーのケビン・ドラム氏)との声が上がった。
オバマ政権も結婚防衛法をめぐる裁判で、カリフォルニア州政府と全く同じ対応を取った。同法は1996年に上下両院が圧倒的賛成多数で可決し、当時のクリントン大統領が署名して成立したものだ。だが、こうした経緯を無視し、オバマ氏は2011年に、結婚を男女間の法的結合と定義した同法の規定を「違憲と結論付けた」と一方的に発表、エリック・ホルダー司法長官に擁護をやめるよう指示した。下院で多数派を占める野党共和党がオバマ政権に代わって裁判を争ったため、オバマ氏の対応はカリフォルニア州の裁判ほど問題視されなかったが、大統領が法律を擁護する責任を放棄した事実は重い。
(ワシントン・早川俊行)