同性婚めぐり揺れるドイツ

小林 宏晨日本大学名誉教授 小林 宏晨

連邦議会は容認を決議
憲法裁判所が合憲性判断へ

 ドイツでは「婚姻および家族の保護」については、憲法(基本法)第6条に「婚姻および家族は、国家秩序の特別の保護を受ける」と規定されている。

 筆者が欧州に留学していた1950年代後半から60年代前半頃にはドイツ刑法第175条により男性間の性行為が依然として可罰対象とされていた。その後ドイツのいわゆる「同性パートナー規定」は、2001年2月16日に、婚姻法とは別に、「生活パートナーシップ法」として制定された。この法律は、ドイツにおいて同性のペアに、婚姻登録は認めないが、登録を通して婚姻に類似する生活パートナー制度の創設を可能にする目的を有している。

 なおドイツでも並行して、主にリベラル左派陣営から同性間の婚姻を可能にする「全てのための婚姻」を要求する運動が強化されて現在に至る。この運動は、全てのペア、つまり異性のペアばかりか、同性のペアの結合も婚姻として承認することを求めるものである。

  ドイツの政党地図の中で、「全てのための婚姻」に賛同する政党は、ドイツ社会民主党(SPD)、緑の党、左派党および自由民主党(FDP)で、反対する政党は、キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)およびドイツのための選択肢(AfD)である。なおドイツの連邦議会選挙は今年9月に行われるが、そのために「全てのための婚姻」推進派の全ての政党が選挙後の連立相手の条件として「全てのための婚姻」への賛同を挙げている。

 16年6月26日、ブリギッテ誌主催のトークショーでメルケル首相は、「全てのための婚姻」について、良心問題として連邦議会での決議の際に、CDU/CSUの党議拘束が外されることに言及。連立相手のSPD執行部は「全てのための婚姻」事案を連邦議会で決議する政策を打ち出した。

 ドイツでは01年以降、同性ペアの生活パートナー制への登録が許されるようになり、15年の調査時点で約9万4000組が登録した。しかも時の推移とともに、同性ペアの「登録生活パートナー」には、連邦憲法裁判所の判例により、多くの婚姻に類似する権利・義務が付与された。それは例えば、扶養義務や遺産相続権に始まり、姓名法の適用および夫婦分割課税にまで至る。だが、最後の壁が同性ペアたる「登録生活パートナー制」の婚姻との同権化を阻んだ。それは、同性ペアたる登録生活パートナーには他人の子供の共同養子が許されないことであった。

 連邦議会は17年6月30日、絶対多数(393票)をもって、同性ペアのための婚姻(全てのための婚姻)を決議した。党議拘束が外されたCDU/CSU側からは75票(同党議員総数の4分の1)の賛同票が投じられた。反対票は226人、棄権票は4人、メルケル首相は反対票を投じた。

 しかし、「全てのための婚姻」、つまり「同性ペアの結合」を通常の結婚、つまり「異性ペアの結婚」と法的に同置することは、憲法問題を生じさせる蓋然(がいぜん)性がある。

 CDU院内総務フォルカー・カウダーによれば、「婚姻とは男性と女性の結合」であり、従って「全てのための婚姻」によって同性ペアの結合にも婚姻の道を開くことは憲法適合性への疑念を生じさせる。さらにCSUの連邦議会議員ハンス・ペーター・ウールは、規範審査を目的として連邦憲法裁判所に訴える姿勢を示している。

 しかも連邦憲法裁判所元長官ハンス・ユルゲン・パピーア教授によれば、「全てのための婚姻への道を開こうとするものは、基本法を改正しなければならない。しかも基本法の改正は通常法律では行い得ない。しかも変遷した時代精神であっても、この憲法理解を変更しない」。連邦憲法裁判所は、これまで、基本法の意味における婚姻を「永続性を志向する生活共同体を目的とする男性の女性との結合」に限られることを強調してきた。

 15年半ば頃までは連立与党(CDU/CSU+SPD)は、「ホモペアとヘテロペアの完全な同置は、基本法第6条の改正下においてのみ可能となる」点で一致していた。その後ハイコ・マース法務相(SPD)は、これまでとは反対の見解を表明するようになった。

 基本法第6条により「婚姻と家族は国家秩序の特別の保護を受ける」。しかし誰が婚姻を締結できるかについてこの規範は教えない。ドイツ民法も同様に教えていない。しかしこの状態は間もなく変更される。つまり、「婚姻は、異なった性あるいは同一性の二人によって締結される」に代えられる予定とされる。

 しかし、この「全てのための婚姻」は基本法の形成無しに導入され得るのだろうか。それは、婚姻が憲法の意味で何と理解されるかに懸かっている。