否定される信教の自由、花屋の同性婚拒否は「差別」
米西部ワシントン州の最高裁判所は16日、同性カップルの結婚式に飾る花のアレンジを断ったキリスト教徒の花屋店主の行為は、性的志向に基づく差別を禁じた州法に違反するとの判決を下した。同性愛者の権利拡大が進む米国では近年、伝統的な宗教道徳に基づき同性婚に反対するキリスト教徒が「差別主義者」と糾弾され、社会的制裁を受ける事例が相次いでおり、宗教界が懸念を強めている。
同性婚のフラワーアレンジメントを宗教的信念を理由に断ったことで訴えられたのは、同州で花屋を営む女性店主バロネル・スタッツマンさん。スタッツマンさんは2013年、長年の顧客だった同性愛者の男性の依頼を丁重に断った上で、別の花屋を紹介したが、その男性カップルと州政府が提訴。8人の子供と23人の孫を持つ「普通のおばあちゃん」は、泥沼の裁判に巻き込まれていた。
スタッツマンさんは連邦最高裁に上訴する意向を表明しているが、最終的に裁判に負ければ、原告側の訴訟費用の支払いで自宅を含め全財産を失う可能性がある。
スタッツマンさんは判決に対し、「州はこの裁判を使って私の最も大切な信念に反する芸術表現の創作を強制し、私の仕事や貯金まで取り上げようとしている」と反発。「政府の処罰や干渉を恐れることなく、自由に創作し、信仰に沿って生きる権利」を認めてほしいだけだと訴えた。
キリスト教福音派系の有力団体「家庭調査協議会」のトニー・パーキンス会長は「信念に従う自由を尊重する米国の長年の伝統を踏みにじる判決だ。米国民を道徳的に同意できない言論や行事に強制的に従事させる権限は政府にない」と厳しく批判した。
オレゴン州でも15年に、同性カップルに依頼されたウエディングケーキ作りを断ったキリスト教徒の元ケーキ店経営者が州当局から13万5000㌦(約1500万円)もの巨額の罰金支払いを命じられるなど、各地で結婚を男女間のものと信じる人々の信教の自由が否定される事例が相次いでいる。
このため、宗教界からはトランプ大統領に対し、信教の自由を擁護する大統領令の発令を求める声が上がっている。大統領令はあくまで連邦政府が対象で、スタッツマンさんらの裁判に影響を及ぼすものではないが、連邦レベルで信教の自由が擁護される意味は極めて大きい。
パーキンス氏は「オバマ時代の政策のせいで米国民は信教の自由喪失を経験している。今こそ信教の自由を擁護する時だ」と、トランプ氏の大統領令に強い期待感を示している。
(ワシントン早川俊行)