LGBT権利VS伝統的価値観 保守派、結婚文化再建へ長期戦
最高裁判決後も米社会を二分
米連邦最高裁は昨年6月に全米50州で同性婚を認める判決を下したが、これで論争に終止符が打たれたわけではない。性的少数者(LGBT)のさらなる権利拡大を求めて新たな闘争を始めたリベラル勢力と、信教の自由や伝統的な結婚・家庭の枠組みを守ろうと抵抗する保守派・宗教界。果てしなき「文化戦争」は、今後も米社会を二分し続けることになる。(ワシントン・早川俊行)
「最高裁判決は最終決定ではない」――。こう主張するのは、同性婚問題の保守派若手論客として注目されるライアン・アンダーソン・ヘリテージ財団研究員だ。裁判には敗れたが、男女の伝統的な結婚が安定した社会の基盤だという真実までが覆されたわけではなく、健全な結婚文化を取り戻すために戦いを継続しなければならないと訴える。
アンダーソン氏がその手本として挙げるのが「プロライフ(中絶反対)運動」だ。最高裁は1973年に女性の妊娠中絶権を認める「ロー対ウェイド判決」を下したが、保守派の長期にわたる地道な活動によって中絶反対の世論が次第に拡大していった。「プロライフ運動がしてきたことを結婚の領域でも再現する必要がある」と、アンダーソン氏は主張する。
その中で、保守派にとって最優先課題は、伝統的な結婚を支持する人々の信教・言論の自由を守ることだ。近年、同性婚に反対するキリスト教徒が「差別主義者」のレッテルを張られ、職を解かれたり、裁判に訴えられて罰金を科されるなど社会的制裁を受ける事例が相次いでいる。結婚をめぐり自由な言論、行動が許されない状況では、健全な結婚文化の再建など望むべくもない。
連邦議会では共和党議員が憲法で保障された信教・言論の自由を守る「憲法修正第1条防衛法案」を提出。法案は「結婚に関する宗教的信念に従って行動する個人や組織に対し、連邦政府機関が免税資格や補助金、契約、認可などを拒否することを防ぐ」(マイク・リー上院議員)もので、同性婚・同性愛反対を理由に免税資格や補助金を失うことを恐れる宗教系教育機関、非営利組織の懸念を踏まえたものだ。
これに対し、LGBT勢力は「宗教を理由に差別を許容してはならない」と、信教の自由を擁護するいかなる法案にも反対の立場だ。インディアナ州が昨年、「宗教の自由回復法」を制定すると、LGBT勢力は経済界を巻き込んで激しい圧力をかけ、法律を骨抜きにしてしまった。
左翼法曹団体「全米自由人権協会」(ACLU)によると、昨年、州レベルで信教の自由を守る法案が90提出されたが、成立したのは3州だけだという。LGBT勢力の反対運動の激烈さと、信教の自由よりLGBTの権利が優先される風潮の強さを物語るものだ。
同性婚全米合法化の悲願を果たしたLGBT勢力は、新たな闘争目標として、性的指向や性自認(ジェンダー・アイデンティティー)に基づくあらゆる差別を非合法化することを目指している。昨年、LGBT勢力の強力な後押しで連邦議会に提出された通称「平等法案」は、黒人差別撤廃のために1964年に制定された公民権法に、性的指向と性自認を差別禁止の対象として加えるものだ。これが成立すれば、伝統的価値観を重んじる人々の信教・言論の自由が一段と圧迫されることになる。
保守派・宗教界とリベラル・LGBT勢力の「文化戦争」は、11月の大統領選の主要争点ではないものの、多くの共和党候補が「憲法修正第1条防衛法案」を支持する一方、民主党の最有力候補ヒラリー・クリントン前国務長官は「平等法案」に賛成するなど、対立が鮮明になっている。大統領選の結果が文化戦争の潮流に大きな影響を及ぼすことは確実だ。







